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作家村山由佳さんインタビュー全文(6)タトゥー入れて、物書きの腹が据わった

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 ――タトゥー(入れ墨)を入れたそうですね。なぜですか。

 村山 2年くらい前です。私の母親がとても厳しい人で、いい子でいることが私の習い性でした。ものを書くうえで、それではいけないと覚悟した時期と同じころに、その癖をなんとかしないといけないと思いました。

 嫌われるのがいやだとか、悪く思われるのがいやだから、のまなくていいことをのんだり、いい顔をして外面をつくろったりすることをやめないと、本物を書く力はわいてこないと思った時に、ばかばかしくて後ろ指さされることをしてみようかなと。物書きは先生と言われるようですが、これほど社会の底辺にあるような仕事はないわけです。自分の中の汚い部分、心ある人なら隠しておくような事も、腹かっさばいて書いて、それを人に読めと強要するという仕事ですから。

 「ダブル・ファンタジー」を書いて、こういう人間関係や感情について書けば、誰かが傷つくとわかっていても、書くことによって作品が深くなると思うと、書かずにいられない。ある瞬間に鬼みたいになる自分を引き受けようと思うなら、ふだんから自分は「人でなし」だと思っていた方がいい。いい人のふりをするのはフェアじゃない。わかりやすい印を自分につけておこうと思いました。

 ――どんなものを彫ったのですか。

 村山 胸のところにフェニックス。左の足首にドラゴンが巻き付いていて、あと一か所ありますが、それはごく限られた人しか見ません。

 ――もう消せない、後戻りできないわけですね。

 村山 そうですね。そういうことが必要でした。

 ――何か変わりましたか。

 村山 日常生活では変わらないですが、もう一生、物書きをするしかないな、と腹がすわった気がします。そういう印が私についていることで、何を書いても、「ああ、あの人、本当はあんなだものね」とあきらめてもらえる、というずるい考えもあります。

 ――これからどんなものを書きたいと思いますか。

 村山 人にまゆをひそめられるものも書きたいし、とてもきれいな光を希求したものも書きたい。震災以来、毎日胃薬が必要なくらい、(ニュースを)見ているだけでダメージを受けます。安全な場所で見ているだけのくせにダメージを受ける自分がまた申し訳ない、という気持ちがグルグル回って、いつ自分のもとにそういう災厄が襲ってくるかわからない。家族から飼っている猫に至るまで、あした一緒にいられるかどうかわからない、という気持ちが強くなって、小説なんて何の役に立つのだろうとも思いました。

 雑誌社から「被災者にメッセージを」と言われましたが、言葉を職業にしているだけに、何かを言うと、自分の中でそらぞらしく響いて、人に届かない気がして、お断りしました。それはもう少し私の中に沈ませておいて、落ち着いた時に作品の中で書くしかない。言葉なんかが何になる、という思いの反面、今だから言葉の力を信じたいという思いもあります。自分の発する言葉に対する感覚が変わった気がします。人にも届く言葉を模索しているところです。(おわり)

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