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災害時の心のケア (4) 質疑応答 取り組みは長期に

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 : 今まで続いていた現実と、突然起きた非現実の格差が心の中でわだかりになっていると思います。日常生活に戻るまでかなり時間がかかるだろうと、私自身の阪神淡路大震災のときの体験談で思いました。石井さんはどう考えますか。

 : 大きな災害を体験すると精神的なショックを受けますので、人間は興奮状態に陥ります。一種の躁(そう)状態になると言ってもよいでしょう。避難所に来たときは多くの人がこうした興奮状態に陥っています。疲労していても神経が高ぶっているので疲労感をあまり感じないという状態です。

 1か月過ぎたころから周囲の状態が少しも良くなっていかないという焦りが起こってきます。被災直後より身体的疲労の自覚も大きくなってきます。興奮状態の時は少し休むだけでも元気になったような錯覚を起こしたり、寝ないでも大丈夫なんて思ったりするものですが、やがて疲労が増してきて限界がやってきます。避難所でも同じことで、動き回ったり、人を助けたり、緊急活動に参加しているうちに、やがて身体的にも精神的にも疲弊してきます。

 その時点から起こってくる精神状態には様々な個人差がありますが、ひとつの例をあげると、「これは本当に起きたことではない」といって現実を受容せずに否定し続けてしまう人も現れます。そうなるとご質問のように、日常生活に戻るまでにかなりの時間がかかってしまいますね。

 今回の災害のように、震災後も常に地震が起こるような避難所生活では、どんな情報も恐怖や不安につながってしまうという危険性もあります。福島県はそのよい例です。原発に関する不確かな情報というのは、収まることがない地震の揺れと同じくらいか、それ以上に人々に恐怖を与えます。将来の見通しが付かないという不安も重く心にのしかかり、ひとりひとりが精神的ストレスにまみれて生活をしている状態です。

 避難所には高齢者の方が多くいらっしゃいます。人生の終盤でこんな災害にあい、自分が助かってしまったことを悔やんでいる方すらいらっしゃいます。「どうしてあの人が死んで私が生きていなきゃならない」といった思いです。そういった話を口に出して言う気力もない方も多くいらしゃいます。

 本来ならば、心のケアは、心身共にくたびれてしまう前に医療サービスの対策をとらなくてはいけません。時間が経てば経つほど、「避難所で何も考えずにジッとしていればいい」となりがちです。ご高齢者の方々は決して楽しくてそうしているのではありません。失望感から次第にそうなっていくのです。

 私は避難所で生活をしていらっしゃる方々に対して、将来とか明日といった言葉より、今やりたいことは何でしょうかと伺っていくのが、心のケアで大切なことではないかと思っています。具合悪いところありせんか?食事は足りていますか?寝てられていますか?という質問は大切ですが、必ずしも心のケアの言葉ではありません。「今一番気にかかっていることはなんですか」と聞くのが心のケアです。

 少し荒っぽい言い方かもしれませんが、1日でも早く日常生活に戻るためには、できるだけ被災以前の環境が同じだった方に共通する心のケアは何かを考えていかなきゃならないと思います。たとえば津波で家屋が全部流されてしまった方と、流されずに家のある方ぐらいのグループには分ける必要があるでしょう。そこで、長期の精神的ケアをしていかなくてはいけないと思います。

 避難所で一番予防しなければならないのは自殺でしょう。人間は非現実的なことが起こった直後に悲しくて死ぬことはあまりありません。そろそろ元気を取り戻されたかなと、お世話をする方がちょっと腰を下ろそうと思った時に亡くなる事の方が多いのです。かなり長い間、気を抜いてはならないのです。そこのところを丁寧に考えていきたいと思っています。


 : 東京に住んでいますが、被災地の方にできる精神的サポートはありませんか。

 : ネットがずいぶん役に立っています。ちょっとした時間があったら、私もこんなことできます、といった情報を流すのもいいかもしれません。

 
 
 

 例えば、ペットのグリーフケア(悲しみのケア)はネットがかなり活躍しています。亡くなったヨークシャーテリアの目は何色で、という話をネットで流している人に、犬に詳しい方がそれとよく似たワンちゃんの写真を送ってきてくれたりする。ひとつの心のケアでしょう。これなら東京の方でもできるかもしれません。

 あと、栄養の指導もできますね。食欲のない方にこうしたら、ちょっとおいしく食べられるというアイデアを送ってくれてもいいですね。


 : 石井さんを被災地へ動かす原動力になっているものは?

 : 私の博士論文の指導教官が福島ご出身で、最初に福島に行った時、私が運転をしていたのですが、福島県に近づくと多くの自衛隊の災害支援車が次々と高速出口を走り抜けて行きました。我々もめったに見ない光景でしたが、ふとバックミラーごしに後部座席にいる指導教官を見ると、窓ガラスごしに自衛隊の車に向かって「ありがとうございます。ありがとうございます」とおっしゃっているのです。どう表現していいのかわからないのですが、その時にこれは人生で最後の仕事になるかもしれない、真剣に取り組まなくてはならないと思いました。

 ヨミドクターのブログにも書きましたが、私は50歳をすぎて国家資格を取ったものの、なんの役に立つのだろうってずっと思っていたんです。だから神様がミッションを与えてくださったと今は感謝しています。

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 ※ ブログ「石井苗子の健康術」はこちら

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