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[古市忠夫さん]「感謝力」でフルショット

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阪神大震災で唯一残ったゴルフバッグ。今も、大切に保管している(神戸市内で)=原田拓未撮影

 緑がまぶしいゴルフコースに向かって帽子を脱ぎ、一礼する。「ありがとう」。自分を支えてくれる家族、友人、地域の人たちに、心の中でつぶやく。11年前、プロゴルファーになる前からの習慣で、決して欠かすことはない。

 「今、こうしてゴルフができる、夢に向かって頑張れる――。私は、日本一幸せな男だと思うとります」

 神戸市長田区の商店街で小さな写真店を営む、「ゴルフ好きのおっちゃん」だった。30歳で始めたゴルフに、少ない小遣いをつぎ込み、1994年、アマチュアゴルファーの夢であるハンディキャップ「(ゼロ)」を、54歳で実現した。

 もちろん、プロになるなんて考えてもいなかった。だが、翌年1月に起きた阪神大震災が人生を変えた。

 火災で、店舗兼自宅が焼失。火の手が及ばなかった駐車場に、自家用車だけが残された。トランクの中には、ゴルフクラブを入れた愛用のバッグが一つ。

 「ビビビッ!ときました。神様に、『これで生きていけ!』と言われたような気がしました」

 大勢の仲間を失ったが、自分には命が残った。運命のようなものを感じた。商店街を復興させた97年末、友人の勧めと家族の応援で、写真店を廃業し、プロ転向を決意する。2000年9月、2度目のプロテスト挑戦で、若いエリートたち約1800人と争い、50位以内に入り、合格。60歳を目前に夢をかなえた。

 以来、計8勝。逆境を乗り越え、活躍する姿は、赤井英和さん主演の映画「ありがとう」(06年公開)にもなった。講演で全国を飛び回る。

 一方、地域活動にも心血を注ぐ。震災で、地域のつながりの大切さを実感したからだ。自治会長として、高齢者の孤独死防止に力を入れ、住民とともに、月1回の消防訓練も欠かさない。

 「忙しゅうて、ゴルフの練習量はアマチュア時代の4分の1に減りました。でも、地域の人たちからたくさんエネルギーをもろうてますから、試合でも怖くないんです」

 6月の予選会に備え、練習に本腰を入れなければならない時期だが、今月9~14日には、東日本大震災の被災地である宮城県七ヶ浜町へ、ボランティア活動に出掛けた。

 「想定外の大震災だからこそ、想定外の支援が必要。復興税はもちろん、全国のゴルフコースで料金に100円上乗せしたり、国民も毎日100円貯金したりして、義援金に充てたらええんです」。震災経験者として、被災者のこれからの人生を思わずにはいられない。

 人生は、才能と努力が全てだと思っていた。でも今は、「そやない!」と断言できる。「私は、才能も努力も人並み。優れている部分があるとすれば、それは『感謝力』です。感謝は、心を大きく、美しく、若く、そして強くしてくれますねん」。だからプロゴルファーにもなれたし、試合にも勝てたと確信する。

 今後は、全国の子供たちに、感謝することの大切さを伝えていくつもりだ。ゴルフでは、年齢以下のスコアでラウンドする「エージシュート」を目標にする。

 「『もう年や』などと、ぼやいたらあきまへん。ぼやきは体に毒です。感謝の気持ちを持って、心豊かに生きる――。これが一番ええんとちゃいますか!」(安田武晴)

 ふるいち・ただお プロゴルファー。1940年、神戸市生まれ。日本プロゴルフグランドシニア選手権大会(2005年)など計8勝。著書に「『ありがとう』のゴルフ」(ゴルフダイジェスト社)など。

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