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中曽根康弘、渡辺恒雄、垣添忠生の3氏鼎談

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がん克服 新戦略を(2)

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公開講座 「巨頭は語る、わが国の将来」


医療介護省を

 医療行政への危機感から、渡辺主筆は新たな組織論にも踏み込んだ。

鼎談に臨む(左から)垣添元国立がんセンター総長、中曽根元首相、渡辺本社主筆

 渡辺 がんセンターや一般病院は厚生労働省、大学病院は文部科学省の管轄と分ける意味はない。医療はひとつの官庁で担当すべきだ。麻生内閣時代に安心社会実現会議のメンバーとして、医療省の創設を提言したことがある。今は、厚労省を二つに分け、医療介護省と雇用年金省をつくるべきだと思う。そのうえで有識者を集めて医療政策を立案させ、予算をつけ、実行する。そうでない限り、医療の進歩が妨げられてしまう。

 垣添氏も「製薬を含めた日本の医療は、文科、厚労、経済産業3省の縦割りの弊害が出ている」と同様の認識を示し、「米国の国立衛生研究所のように、医療を担当する統合的な機構が必要だ」とする。

 垣添 3省がからむ医療問題にきちんと対応できる組織をつくるには、どうしたらいいか。

 中曽根 私のアイデアは、内閣府に医療の専門家を集め、首相をトップとする司令部をつくることだ。ここで方針を決め、実行は各省の医療担当者とする。医療関係には各方面にお山の大将ばかりいて、相互協力は難しく、首相がリーダーシップを発揮するしかない。新しい医療体系をつくる時期に来ている。がんとの闘いも、精神医学や家庭生活などと関係してくる。改めて総合戦略として取り上げる必要がある。


予算は重点配分

 しかし、課題は多い。経済の低迷で税収が伸びないところに、東日本大震災が襲い、東北復興への財政出動が予想されている。

 垣添 このような状況の中で、どうすれば医療予算を確保し、研究開発を進めることができるか。

 中曽根 国の医療制度を前進させるには、研究開発で外国に勝つ分野をしっかりつくること。周囲を引っ張っていく中心が必要だ。重点的にお金を出すところを政治が考え、要になるところを進展させていくことが非常に大事となる。医療制度は重点的であっていい。もちろん、先端医療の均てん化(恩恵を全国に広げること)も政治の仕事だが、先端部分がうまく前進すれば、その恩恵は自然に全国に広がっていく。

 渡辺 東日本大震災で税と社会保障の一体改革は3年は遅れるだろう。医療と社会保障を同じ組織でやっては予算の配分も難しくなる。医療介護と雇用年金は別の省であるべきだ。また、先進国で日本は一番、国民負担率が低い。消費税の5%も欧米や韓国と比べて低い。ある程度の負担増を考えないといけない。

 最後に中曽根氏は「研究開発とオリジナリティーの高い仕事の重要性」を強く主張し、渡辺主筆は「遺伝子治療が進展すれば、がん患者に希望を与えることができる」と語り、鼎談を締めくくった。


 中曽根康弘 元首相

 衆議院議員20期。82年から87年まで首相。がんの本態解明を目的とする対がん10か年総合戦略をスタートさせた。現在は財団法人世界平和研究所会長。



渡辺恒雄 読売新聞グループ本社 会長・主筆

 読売新聞社社長当時の98年に国立がんセンター中央病院で、垣添院長(当時)らによる前立腺がんの全摘手術を受けた。04年から読売新聞グループ本社会長・主筆。



 垣添忠生 元国立がんセンター総長

 対がん10か年総合戦略で渡米し、前立腺がんの全摘手術を習得。国立がんセンター中央病院院長を経て02年から同センター総長。天皇陛下の前立腺がん手術を担当。現在は日本対がん協会会長。


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