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がん患者への「傾聴」…苦悩を尊重し受け入れ

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「がん 心のケア ほっとライン」を開設した毛利さん(写真は、実際の相談場面ではありません)

 死を意識させるがんは、恐れや迷い、後悔、自責の念が患者の心を襲い、悩ませることがあります。名古屋市のボランティア団体が運営する「がん 心のケアほっとライン」では、電話で胸の内をありのままに聴く「傾聴」で、がん患者を支える活動を続けています。(渡辺理雄)

 「がん 心のケアほっとライン」は、乳がん体験者の毛利祐子さん(70)が2000年5月に開設。「聴き手」と呼ばれる14人のボランティアが、がんに関する悩みや心情を交代で聴いている。今年4月末までに、累計で約1800件の相談が寄せられた。

 「家族を心配させてはいけないから、と家の中ではがんについて話せないという人がいる。また親戚や友人に苦しい気持ちを打ち明けたところ、『もう聞きたくない』と断られ、行き場を無くす人も。そうした相談者の気持ちの受け皿になるのが『ほっとライン』の役割」と毛利さんは話す。

 がんの電話相談は、がん診療拠点病院などでも行われているが、違うのは「相談者の言いたいことをありのままに受け入れて聴く」(毛利さん)という方法で行われている点だ。「聴き手」のボランティアは、あらかじめ研修を受けることになっている。

 「ほっとライン」の研修などに協力する臨床心理士の亀井敏彦さん(はこ心理教育研究所長)は「傾聴では『いっそ死んでしまいたい』という相手に、『こんなにいい治療法がある』とか、『どうして死にたいなんて思うの?』などとは答えません」と話す。

 そうした場合は「死にたいと思うくらい、つらい気持ちなんですね」などと応じ、相手の気持ちを理解するよう努めるという。一見簡単そうだが、意識していないと、即座に答えられそうにない。

 「苦しい心情を聞かされれば、『苦しみを軽くしてあげたい』『問題を解決してあげたい』と思うのが自然な心情。しかし、そこを先走らずに、相談者の苦悩を尊重して聴くことにとどめるのが傾聴です」

 亀井さんによると、傾聴の心構えは三つある。

 〈1〉自分の意見を保留する 相手の話に同意できなくても、話を遮らない。世の中には多様な考え方、悩み、苦しみがあることを理解する。

 〈2〉自分は「愚か者」だと思う 聴くことは学ぶこと。これまで身に着けた知識などで相手の問題を解決しようなどと思わない。

 〈3〉人には回復力がある 悩み、苦しむ人の中にも、正常に回復するだけの力が残っている。話すだけ話したら自分で問題に気づき、解決する方向に踏み出す。聴き手は動き出すのを待つ。

 身近な人ががんで苦しんでいたら、傾聴の態度で接することは相手の役に立つだろうか。亀井さんは「家族でも、友人でも同じ。ただ、家族に対しては、思いが深い分、助言をしたくなるでしょうが、話を聴いた後は、相手を信じて行動を待つといいと思う」と話す。

 相談者の中には、3時間かけて話をする人もいる。2~3年にわたり、電話をしてくる人も珍しくないという。「相談当初は『絶望のどん底』と話していた人が何度か話すうちに『今はしあわせ』と語り、電話が終わったことがある。時間がかかっても相談者とともに歩みたい」と毛利さんと話している。

 「がん 心のケアほっとライン」((電)052・836・7565)は毎週木~金曜日、午前10時~16時。無料(通話料は別)。

傾聴
 精神科の心理療法で患者と対話する際の技法の一つ。患者にあれこれ尋ねるよりも、まず心を寄せて話を聴くという「来談者中心療法」を創始したアメリカの心理学者カール・ロジャースが提唱。戦後日本の精神医学界で広まった。
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