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最終回 : 昔の「ケータイ」 は印籠 ~ 旅行の時の薬入れ ~

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 現在、「ケータイ」といえば「携帯電話」を意味します。辞書にも「携帯電話の略」と記されています。同じ「携帯」でも昔と今では随分変わりました。

 
印籠の構造と名前

 昔の人々は旅先などへ薬を携帯する時には、携帯用薬入れである印籠(いんろう)が必需品でした。印籠といえば、水戸黄門の「この紋所が目に入らぬか」と「葵の紋」の印籠を差し出して見せる場面を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。                

 くすり博物館に来館される方が、「印籠が携帯用の薬入れだったとは・・・。知らなかった!」といわれることがしばしばあります。印籠は蓋と本体がはめ込み式で、特殊な構造になっているため、密閉性がよく薬の保存にも適していました。

 さて、この印籠の起源を調べてみると、初めは文字通り印判印肉の容器で、室町時代に中国より伝わりました。日本では、最初は宮中で公卿たちが火打ち石入れに使っていましたが、失火を恐れ火打ち石の殿中持ち込みが禁止されてから薬容器に転用されたようです。室町時代は唐物が珍重され、貴族の邸宅や書院の棚飾りとして飾られた印籠が、やがて薬を入れる器の呼称として通用するようになったと推測されます。

 
印籠 江戸時代  笛を吹く源義仲の絵が施されている。

 室町末期から桃山時代にかけて描かれた風俗画には、印籠と巾着を腰に提げている人物が丁寧に描かれています。印籠を腰から提げるようになったのは、この頃だったと思われます。桃山時代は風俗画、漆工芸、染色など工芸技術が進歩した時代でした。身分の高い人や富裕な人たちが趣味に応じて、蒔絵(まきえ)などの細工を施すなど凝ったものを造らせるようになりました。特に印籠を帯に留める根付(ねつけ)※ はその評価が高くなり、美術工芸品として欧米人に珍重され、おびただしい数が国外へ持ち出されました。根付さしあたり今でいう携帯電話などにつける高級なストラップといった感じでしょうか。印籠は薬の品質保持のための工夫だけでなく、繊細な工芸技術、日本の意匠着想の奇抜さがあり、今も見る人の心をとらえます。

 現代の私たちも非常時に携帯したいのは、情報通信手段だけではなく、「命を守るための薬」も欠かせないのではないでしょうか。これは昔と変わりがありません。(内藤記念くすり博物館  伊藤恭子)

 ※ 根付… 江戸時代に煙草入れ、矢立て、印籠などを紐で帯から吊るし持ち歩くときに用いた留め具



 くすり博物館の資料にまつわる話を中心に3人の学芸員で交替で書かせていただきました。今日で最終回となります。1年間ご愛読いただきましてありがとうございました。いつか皆様も岐阜のくすり博物館へいらしてください。お待ちしております。

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