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ケアノート

医療・健康・介護のコラム

[関口祐加さん]「認知症の母」映画題材に

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ありのままを伝えたい

「地域のゴミ当番が回ってくると、母は一生懸命務めを果たそうとする。そんな姿にもいとおしさを感じます」(横浜市で)=吉岡毅撮影

 映画監督の関口祐加(ゆか)さん(53)は、認知症の母・宏子さん(80)の世話をしながら、その母を主人公にしたドキュメンタリー映画を作っています。長くオーストラリアに滞在していましたが、母をそばで支えようと昨年1月に帰国。「ありのままの母を受け入れたい」と言います。

 母の認知症を強く疑うようになったのは2009年夏。それまでは年1度、オーストラリアが夏休みになる12月~1月に息子と一緒に帰国することが多かったのですが、その年は、自分自身を被写体にした作品「THE ダイエット!」のプロモーション活動で何度も帰り、実家に身を寄せる時間が長かった。

 以前から「変だな」と感じることはありました。息子に同じ本が何度も送られてきたり、電話をかけても、なかなかつながらなかったり。生活を共にしてみると、もっと大変な状態でした。身なりは整えないし、冷蔵庫に空のボトルが入っている……。そして、「THE ダイエット!」の1シーンに登場してもらったことを全く覚えていなかったのには驚きました。

 関口さんの父が10年前に他界して以来、宏子さんは一人暮らし。認知症になった母の様子は、映画監督の目に魅力的に映った。家業の米穀店の仕事と家事をこなしてきた生活や世間体から解放され、自由に生きていると思えたからだ。09年9月、宏子さん79歳の誕生日にカメラを回し始めた。

 親の見せたくない部分もさらすことになるけれど、認知症の人が何を感じ、毎日をどう過ごしているかを伝えられます。この映画ができたら、母はきっと世界の人の役に立つという確信があるんです。

 撮影初日。妹の子ども2人と私でケーキを買って誕生祝いをしたのに、母は夜、日めくりカレンダーを見ながら、「誕生日なのに誰も祝ってくれなかった」と言う。すごい映像が撮れた。でも逆に「これからどうなっちゃうんだろう」と落ち込みました。

息子預け帰国

 実は、日豪を行き来しながら撮影を続けるつもりでした。でも、物忘れをした母の恐怖感に満ちた目を見て、「一人にしておけない」と、気持ちが変わった。実家のそばには妹一家が住んでいるものの、私はこれまで好きなことをさせてもらったので恩返しがしたいと、帰国を決めた。

 でも、つらかった。10歳の息子と別れることになったからです。離婚し、母子2人暮らしでしたが、元夫の承諾が得られず、息子を日本に連れ帰れなかった。国際結婚が破綻した際の子どもをめぐるルールを定めた国際条約があるからです。「母には私しかいないけれど、息子には愛してくれる父親がいる」と考え、元夫に託した。息子は泣きながらも、納得してくれました。

 三十数年ぶりの同居生活。医師嫌いの母親を何とか説得し、脳神経外科を受診。初期のアルツハイマー病と診断された。

 母にカメラを向け、「認知症と診断されて、どう思うか」と聞いてみました。「そんなこと、あるわけない。自分が一番自分を知っている」と強がりつつも、「忘れたことは忘れてないよ。ああ、まただって諦めている」と寂しげに言う。本人にとっては一番つらい段階かもしれません。

 料理もせず、外出もしない。ほとんどこたつにうずくまっています。鍋を焦がしたり、外出して待ち合わせ場所に行けなかったりした体験が心の傷として残っているんだと思う。他人と接するのも嫌がり、介護サービスも拒否。要介護3と認定されましたが、今のところ介護保険を利用したのはトイレの改修だけですね。

無理せず楽しく

 押しつけはしたくない。オムツは、私やケアマネジャーが勧めても断固拒否している。トイレットペーパーで代用しているようなので、私は安いトイレットペーパーをたくさん買おうと走り回っています。

 母が服を裏表に着ていても、息子と同い年のめいは、「私なんて、いつもだよ~」と笑っている。昨年末、1年ぶりに会った息子は「おばあちゃん、面白くなった」って。周囲から受け入れられているという感覚が母のいら立ちを減らすのか、もの取られ妄想などの周辺症状はほとんどありません。

 友人に、父親が認知症になった男性がいます。父親が友人を運転手だと思い込むようになった時、帽子と手袋を着けて、運転手になりきったそうです。「せっかくだから、アルツハイマー病を楽しんで」というその友人の助言が心の支えになっています。

 映画のタイトルは「此岸(しがん)、彼岸」に決めた。撮影を終え、4月から編集作業を始めた。年内の完成を目指している。

 映像の一部はすでにブログで公開し、ツイッターでもつぶやいています。見てくれた介護経験者からアドバイスがもらえて、介護をオープンにする大切さを実感しています。

 今後、症状が悪化することも想定し、無理せず、楽しく、人の手助けを受けられる環境をつくっていきたいと思っています。(聞き手・中舘聡子)

 せきぐち・ゆか 映画監督。1957年、横浜市生まれ。大学卒業後、オーストラリアに渡る。89年に「戦場の女たち」でデビュー、メルボルン国際映画祭でグランプリを受賞。2007年の「THE ダイエット!」では、自身のダイエットの様子を赤裸々に記録し、話題になった。

 ◎取材を終えて 関口さんが母親の生活を支えつつも、精神的な余裕を保っているのは、母親の行動をカメラを通して一歩引いて見ているからなのだろう。それは、映画監督という特権とも言える。しかし、一般家庭でも、日々の生活をホームビデオに撮ってみたり、日記など文章にしたためてみたり、何らかの形で客観的な視点を持つことで、先が見えない介護のつらさも少しは軽減できるかもしれない。そう思った。

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