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心療内科医・海原純子さんインタビュー全文(2)救助される側の格差が気がかり

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 ――今回の震災は、未曽有の大災害と言われています。

 海原 神戸の震災(阪神大震災)と全く違います。神戸の時は、すぐ支援や復興をスタートできましたが、今回は余震が続いているし、原発事故も収束していないので、「さあスタートだ」と言えない。余震が数年続くという見方もあって、予期不安(災害の再来を予想して不安になる状態)が続くかもしれない。原発が収束していないことでは、無力感があります。

 さらに、救助される側に格差があることも気がかりです。三陸の津波被害がひどい所は、医療の支援もなかなか入れません。行きたくてもルートがない。

 原発から40キロ離れた福島県いわき市は、避難地域には入っていないけれど、物資は届かないし、ものも売れない。同じ被災地の中でも格差があります。

 情報収集力の格差もある。格差と心について、アメリカの研究では、絶対的な格差より、同じ地域にお金持ちと貧しい人たちがいると、格差感が強くなって、幸せや満足の度合に差が出ます。自分の健康を維持しようというモチベーション(動機付け)にも影響します。今、被災地の人は、格差があっても、じっとこらえています。しかし、気分は伝染するので、その地域の不満が伝わって、日本全体が停滞する心配があります。

 被災した人は喪失感もあるし、生活自体も変わって、大きなストレスの要因になります。1年後くらいに体の症状として病気が出てくる確率が高くなります。それは、ストレスの大きさだけでなく、その状況をどう受け止めるか、パーソナリティー(性格)やサポートの仕方で変わってきます。リラックスの仕方などで、受け止めるキャパシティー(容量)を広げながら、サポートしていかないといけません。単に被災地に物資を送るだけでは足りない。

 ――喪失感にもいろいろあります。家族を亡くした、家財をなくした、ひどい光景を目の当たりにした、などです。そうした場合、精神的に問題になることは何ですか。

 海原 今はまだ感情が出てきていません。それが少しずつ溶けだしてきた時に、サポートできる態勢を整えておく必要があります。感情が出てくるには、ある程度安心できる場所、ほっとできる場所がいります。避難先の生活環境の充実を目指さないといけない。

 避難者の受け入れ先によって、対応が違います。群馬県太田市では、民間のアパートを借り上げて入ってもらっています。そういう所では、後々のケアがとてもやりやすい。

 ――避難先でもプライバシーの確保は大事ですか。

 海原 すごく大事です。パーソナルスペース(個人の居場所)は、人間の基本的なもので、どんなに親しい間でも、一緒にいるだけでストレスになります。自分のスペース、プライバシーは大切です。

 ――バラバラに避難すると、地域の人々のコミュニティーが維持できないと言われています。それと同時にプライバシーを保つには、どうしたらいいですか。

 海原 それは両立できることで、避難した先でも近くにいればいいわけです。太田市のように、まとまった地域にアパートを借り上げて、被災者同士がすぐに会えるようにすればいい。(続く)

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