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[かむ]不快感抑えストレス減

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大脳へ「信号」伝わりにくく

かむ効果について説明する小野塚さん(横須賀市の神奈川歯科大学で)

 苦しい時やつらい時、人は自然に歯を食いしばる。日常、何気なく行っている「かむ」という行為が、実はストレス解消に抜群の効果があることが、最新の脳研究で分かってきた。(佐藤光展)

 試合前や試合中、せわしなくガムをかむプロ野球選手。そんな姿をテレビで見て、「マナーが悪い」と感じたことのある人は少なくないのでは。確かに、マナー的には褒められた行為ではないが、選手たちは経験的に気づいていたのかもしれない。「ガムをかむとリラックスできる」と――。

 神奈川歯科大(横須賀市)教授の小野塚實さん(脳神経科学)が行った興味深い実験がある。

 まず、20~60歳代の男女23人に、ヘッドホンで大音量の非常ベルの音を聞いてもらった。すると、全員がこの音を不快と感じ、多くが「数分で耐えられず、ヘッドホンをはずしたくなった」と答えた。

 続いて、再び大音量の非常ベルを聞きながらガムをかんでもらうと、18人が「あれほど嫌だったのに、今は気にならない」などと感じ、騒音に長く耐えられるようになった。

fMRIの脳画像。左の円内が大音量の非常ベルを聞いて活発になった扁桃体の画像。右の画像では、ガムをかんで活動が低下し、サイズが小さくなっている

 小野塚さんはこの実験の最中、最新の画像検査装置「fMRI」(機能的磁気共鳴画像)で参加者の脳の活動を記録した。すると、大音量だけの時は脳の扁桃体(へんとうたい)の活動が活発だったが、ガムをかんで口の筋肉をよく動かすと、扁桃体の活動が抑制された。

 扁桃体は、視覚や聴覚など五感から入った刺激が、快か不快かを判別する部位。星城大学健康支援学研究科教授(脳神経科学)で歯科医の久保金弥さんは「ガムなどをかむと扁桃体の活動が抑えられ、不快という信号が大脳に送られにくくなる。その結果、ストレスを感じにくくなる」と話す。

 睡眠中の歯ぎしりも、実はストレス解消につながることが分かってきた。久保さんは「ガムをかんだり、歯ぎしりをしたりすると、血液中のストレスホルモンが抑制される。胃かいようや記憶障害などの予防になる可能性がある」と話す。

 ただ、奥歯が激しくこすれるなど、大きな音がする歯ぎしりは歯を痛めてしまう。久保さんは「歯ぎしりは、犬歯を中心にこすれるのが理想。歯に過剰な力がかからないため音がしない。大きな音がする歯ぎしりが続く時は、かみ合わせを調整する治療が必要」という。

 しかしなぜ、かむことがそれほど重要なのか。小野塚さんは「人間社会は本能を抑えて生きることの連続。捕食したり、身を守るため敵にかみついたりする最も本能的な行為を口で再現することで、ストレスを発散させている」とみる。

 なるほど。では、かみつきたいほど嫌いな人と対面する時も、ガムをかむとリラックスできるのだろうか。

 「数人で実験したことがありますが、効果があった」と小野塚さん。でも、相手に「マナーのないヤツ」と思われ、関係がさらに悪化する恐れもあるので、十分お気を付けください。

ストレスホルモン
 ストレスがかかると体内で分泌される様々なホルモンをさす。副腎皮質から分泌される「コルチゾール」もその一つ。過剰に増えると、脳内で記憶をつかさどる海馬の機能が低下し、新しいことを覚えにくくなる。
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