射精感はあるが、精液が尿道から出ない
一昨年頃から射精時に射精感は今までと変化はないのですが精液が、ほとんど尿道から出ないのです。これを気にして前立腺検査も受診しましたが多少の肥大があるだけとの検査結果で心配不要とのことでした。以前、ラジオの健康相談で私と同じような症状に対し、「精液逆流症?」とか聞いた気がしますが、関係ありますでしょうか。また、治療法はありますか。高齢ではありますが、週一程度の夫婦生活があります。(69歳男性)
精液逆流症か 服用薬が原因の場合も
精液は、約3分の1が前立腺の分泌液(前立腺液)で、約3分の2が精嚢(せいのう)からの分泌液(精嚢液)、この他に、精巣から精子を含んだ液など、計6種類で構成されます。
性的興奮が最高潮に達しますと、まず膀胱のすぐ下の尿道を取り巻く前立腺から「前立腺液」が尿道に分泌されると同時に、膀胱(ぼうこう)の出口部分(膀胱頸部=ぼうこうけいぶ。内尿道口)がしっかりと閉じて精液の膀胱内への逆流を防止します。
少し遅れて精嚢からの「精嚢液」と精巣からの「精子を含んだ液」が前立腺部分の尿道に放出されると尿道内圧が上昇し、その刺激で尿道周囲の筋肉や会陰部の筋肉が律動的の収縮が起こり、精液は勢よく外尿道口より射出され、同時に快感(オーガズム)を感じます。
これら一連の現象は反射的に起こり、射精とオーガズムは連続して起こるのが一般的ですが、それぞれ別な作用機序で起こりますので、射精があってもオーガズムが無かったり、オーガズムがあっても射精がなかったりすることが稀ですがあります。
貴方のように射精感があるのに精液が出ない場合には先ず膀胱頸部がしっかり閉鎖されない為に精液が膀胱内へ逆流する「逆行性射精」が疑われます。
この原因として膀胱頸部の開閉をコントロールする自律神経の損傷や前立腺肥大症で経尿道的に前立腺を切除した場合によく起こるのですが、貴方の場合はこのような外傷や手術も受けられていないようですので、膀胱頸部を閉める作用を弱めるような薬(交感神経遮断薬。例えば、高血圧症に対する降圧薬の一種など)の服用が無いか一度チェックする必要があります。
また前立腺や精嚢は男性ホルモンの作用により分泌機能が保たれていますので、加齢に伴う男性ホルモンの減少により精液量が少なくなっている場合もあります。
逆行性射精かどうかの確認はオーガズムに達した直後に排尿してもらい、その尿の中に精子がいるかどうか調べますが、もともと精子のない無精子症の方はこの方法だけでは判別できません。
この逆行性射精は若い方では不妊の原因になるので重大な問題で治療する必要があり、これまで膀胱頸部の閉鎖に関係する交感神経系の作用を強める薬剤や三環系抗うつ薬の投与等が試みられて来ましたが必ずしも効果が充分でなく、補助生殖医療技術が普及し、膀胱内の精子を利用して妊娠が可能となった現在薬物療法はあまり行われなくなりました。
今から子供を作る必要が無い方では、自分にとっては不満かも知れませんが、膀胱内に精液が逆流しても何の害もありませんし、パートナーを満足させることが出来ると言う点でも勃起障害のような問題は無いと思います。
東邦大学名誉教授、財団法人博慈会顧問 白井將文(しらい まさふみ)