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いきいき快適生活

介護・シニア

[認知症と向き合う](11)「大切なもの」共有する心

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 私は、主に認知症の方々を訪問して診療しています。最近、ある質問をするようにしています。それは「あなたにとって大切なものは何ですか」という質問です。

 「もの」に限りません。人であったり、思い出であったり、何でもよいのです。認知症が進んでいるなあ、と感じる人に尋ねてみても、意外にいろいろお話ししてくださいます。

 ある人は「娘と一緒に買い物に行くこと」と答えられました。さらに尋ねると、その方が50歳くらいの時の話のようでした。その時までは、自分の着物を質に入れるほど、生活が大変だったようです。しかし、夫の事業がうまく回り始め、ほっとしたのでしょう。

 いとおしい娘さんと一緒に買い物に行った光景が目の前によみがえったかのように、うれしそうに話してくださいました。娘さんもその話を聞いて、感慨深げに「私、その話、初めて聞いた」と驚かれていました。

 その人の大切なものの話を聞くと、不思議なことに、第三者の私ですら、その人を大切に思う気持ちが芽生えてきます。相手は迷惑かもしれませんが、相手を大切に思う気持ちが一層強まってくるのを感じます。

 自分が認知症になるかもしれないと思うと、やはり、恐怖心や喪失感、絶望感などが襲ってきます。アルツハイマー型認知症の進行を抑える薬の承認が相次いでいます。ですが、今のところ、認知症になること、そして、薬によってその程度を遅らせることはできても、症状がやむなく進行していくことは、避けられないことといってよいでしょう。

 絶望感の中からの救いのヒントとして、「自分が大切にしているものが、周囲からも大切なものとして思われること」が大きいように、診療を通じて感じています。(木之下徹、「こだまクリニック」院長)

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