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[老前整理]モノ減らし、身軽な余生

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「抱え込み」の不安解消

家の中に眠る家財道具に見立てたカードを使い、実習形式で片付けの作業を体験する参加者(3日、大阪市東淀川区で)=笹井利恵子撮影

 「老前(ろうぜん)整理」という言葉を知っていますか? 老いを前に、今後の暮らしに必要な物を残し、不要な物をそぎ落とす「片付け」のこと。身軽になることで、様々な不安も和らぐようです。(野村昌玄)

 「4年前にバーゲンで買った洋服」「10年前の電子辞書」。テーブルの上に、家財道具に見立てたカードが並ぶ。それらを前に、50歳以上の参加者約30人が「これは捨てたくない」「でも本当に使う?」などと、片付け役や処分を勧める役などを交代で演じる。

 大阪市内で今月3日に開かれた「わくわく片付け講座」の一コマだ。講師の坂岡洋子さん(53)は「それぞれの役を通して、片付けられない人の気持ちも客観的に見えてきます」と語る。

 坂岡さんは、インテリアコーディネーターとして高齢者の住宅改修の相談を受けてきたが、「改修以前に、家に物があふれて足の踏み場がない」と痛感した。そこで昨年から、自治体や企業などの依頼で、50歳代以降の人向けに「老前整理」の講座を開いてきた。

 受講生から強く感じたのは、「体力、気力、判断力が衰える老後に、たくさんの物を抱え込むことへの不安」だった。老人ホームに移る時やこの世を去る時、家族に迷惑をかけないか。あふれる物につまずいて転倒してしまわないか――。

 老前整理によって、こうした不安が消えて身軽になり、死を見据えつつも充実した生活が送れるという。

 まず行うのは、片付けたい物や場所、期限を決め、リストに書き出すこと。「2年以上着ていない洋服、1年以上使っていない日用品は捨てる」など、自分なりの基準を必ず作る。

 さらに、物を「使う」「捨てる」「保留する」など三つの用途に分類。「保留箱」を作り、判断に迷う物はそこに入れ、半年や1年など自分で定めた期限内に使わなければ処分する。

 大阪市内の印刷会社経営の男性(56)は、3LDKのマンションの一部屋に、10年以上前の洋服や古雑誌などを放置していた。

 以前、80歳代の母親が転居した時に大量の物を処分、苦労した経験から、「自分もこのまま手付かずでいいのか」と漠然とした不安があり、昨年3月に講座を受講した。以来、1日15分、少しずつ処分し、部屋はすっきりと片付いた。男性は「先が見えてきて、気持ちも落ちついた」と話す。

 坂岡さんは「テクニックだけでは片付かない」とも強調する。数十年前の高価な物、長年着た背広、亡き母親の形見など、人は個々の物に思い入れがあるからだ。それが理解できず、夫婦で対立することも多い。

 「妻が『私も片付けるから、あなたも一緒にね』などと切り出しながら、夫婦で納得いくまで話し合うことが大事」と坂岡さん。

 赤坂クリニック(東京)理事長で精神科医の貝谷久宣さんは「現代社会は物が過剰になり、知らずに依存していることも多い。片付けは、過去への執着や将来への不安を解消し、今を大切に生きることにつながる」と話している。

「老前整理」
 遺族の「遺品整理」や、財産相続を連想させる「生前整理」とは異なり、片付けを通して、老いる前に人生を身軽にする大切さを伝えようと、坂岡さんが考案した造語。昨年2月に商標登録し、今年1月には「老前整理」(徳間書店)を出版した。


「老前整理」の鉄則
 (1)一度に片付けようとしない
 (2)最初から完璧を目指さない
 (3)家族の物には手を出さない
 (4)片付ける前に収納用具を買わない
 (5)「使える物」と「使う物」は違う
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