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薬と健康 なるほどヒストリー

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正確さは「秤」 の命 ~ 検査のいまむかし ~

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調剤天秤  昭和初期
昭和62年の検査合格証を受けている。昭和初期から50年余り薬局で使用されていた。(秤量200 g 感量0.2g 組分銅0.1 g ~ 100 g)

 薬は、量によって毒にも薬にもなると言われ、常に正確に計量することが求められてきました。薬局では、精密な秤(はかり)を常備しておくことが薬事法によって定められており、秤は薬剤師にとって最も大切な道具と言えます。そのため薬屋や製薬会社のシンボルマークに、天秤(てんびん)や分銅の形を取り入れているところもあります。

 天秤は、公平をあらわすということから、法律の世界でもシンボルになっていますので、世界各国で法律に関する施設や書籍によって紹介されています。日本では、最高裁判所や弁護士のバッジに天秤などの形が使われています。

 秤を使ってはかることで、公平性を客観的に表すことができます。文明が始まって以来、租税としての農作物徴収、土地の測量や建物の設営、商品の交換や売買など、さまざまな目的で秤を用いました。 

 日本では、安土桃山時代以降の楽市楽座などのように自由経済が盛んになると、私腹を肥やすために、質や量をごまかして儲けようと企む人も登場しました。天秤に比べて、さお秤は不正が発覚しにくいこともあり、さお秤を改造して自分が得するような仕掛けを試みる人も現れました。

 
 
 
さお秤  江戸時代
取引の際に持ち歩いた携帯用のさお秤。江戸幕府が認めた「天下一」の極印が皿の中央に刻まれている。 (秤量200匁 感量1分)
 
 
 
 
 

 秤は、取引の際に平等を確認し合う道具なので、正確でなければなりませんでした。そこで、信長をはじめ、秀吉、家康は、ひと目で正確なさお秤かどうかがわかるような目印をつけることで、市場での不正取引を防止しようと考えたそうです。

 ひとつの方法として、卓越した技術を持つ職人に「天下一」という称号を与えて、お墨付きを下した道具には、製造者名の横に「天下一」という誉れの極印(ごくいん)を刻むことでした。江戸幕府が「天下一」の称号を与えたのは、江戸の秤座(秤職人が属した集団)「守随(しゅずい)家」と京都の秤座「(じん)家」の二つでした。江戸時代には、お墨付きをもらった二つの秤座に、さお秤の製造、頒布(販売)、検定、修理を許可しました。

 そして5~10年に一度は、取引に使う秤は秤改め(検査)を受けなければならないと定めていました。検査に合格すると「極」「改」「定」など、その都度、形の異なる極印が、鞘(さや)、皿、錘(おもり)にそれぞれ毎回一つずつ刻印されました。

 現在の計量法でも、2年に1回、取引で使用する秤は定期点検が義務づけられています。そして、所定の行政機関から秤検定に合格した証(あかし)となる認定シールが貼付されます。

 現代の秤は、数字が画面に表示されるデジタル自動秤が主流となりました。時代が変わり、技術が進化しても「秤」の公平性や正確かどうかを確認する秤の定期検査は続くことでしょう。いつの時代も正確な道具を使って、公平な精神ではかりたいものですね。(内藤記念くすり博物館 野尻佳与子)

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1件 のコメント

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偶然見つけたこのサイト

熊谷 慎一

地震情報をとどって行ったら偶然見つけたこのサイト。 私の父が以前、事務長という名札を掲げていた懐かしい博物館の学芸員の方々の執筆ということでした...

地震情報をとどって行ったら偶然見つけたこのサイト。


私の父が以前、事務長という名札を掲げていた懐かしい博物館の学芸員の方々の執筆ということでした。小学生の頃、薬草の研究をするためにお邪魔させていただいた、かび臭い博物館。その匂いまでもが記憶の中に残っているようです。


あれから30年、私自身は薬剤師として、町の調剤薬局の主として、地域住民の皆さんともみくちゃになりながら、医療に向き合っています。医療従事者としての初心を思い出させてくれた記事の数々に、感謝いたします。これからも、がんばって。継続は力です。天助自助者

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