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番外編・患者自身、標準治療が何かを知ってほしい…渡辺聡明さん

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 大腸癌(がん)治療ガイドライン作成委員会委員長である帝京大外科教授の渡辺聡明(わたなべ・としあき)さんに、あらためて、ガイドラインの意義などについて聞きました。

 ――大腸癌治療ガイドラインとは、どんなものでしょうか。

 その時点で最も効果があると国内外の臨床試験などで科学的に実証された標準治療をまとめたものです。専門医が集まり、2~3年に1回、改訂されています。新しい抗がん剤が認可されたり、従来の抗がん剤の適用範囲が広がったりしたため、昨年は前年に引き続き改訂されました。

 昨年の主な改訂点は、手術後の再発を抑える「術後補助化学療法」についてです。大腸がんの病期は、進行度が低い方から0~Ⅳ期に分けられます。一般的には、がんが大腸の壁を越えているが、リンパ節転移がないⅡ期のハイリスク群、リンパ節転移があるⅢ期で、この治療が行われます。

 これまでは、術後補助化学療法は、フルオロウラシル(5-FU)とレボホリナート(l-LV)を1回または持続点滴する治療法(5-FU/l-LV療法)が標準治療でした。しかし、5-FU/l-LV療法に抗がん剤「オキサリプラチン」を上乗せした方が、がん再発率が低くなることが分かり、ガイドラインでは、オキサリプラチンの上乗せ治療(FOLFOX療法)を推奨することになりました。

 病期Ⅲ期の患者の手術6年後の生存率は、FOLFOX療法は72・9%で、5-FU/l-LV療法より約4%高いとの試験結果などが報告されています。

 ――術後補助化学療法による副作用はどんなものがありますか。

 FOLFOX療法では、手足のしびれなどの末梢(まっしょう)神経症状、感染症にかかりやすくなる骨髄抑制などがあります。実は、日本人患者で、末梢神経症状がどのくらい現れるのか、はっきりしないため、現在、データを集めています。また、末梢神経症状が出やすい患者の遺伝子を調べる研究も行われています。副作用が出やすい患者が治療前に分かれば、患者ごとに、有効性が高く、しかも副作用が少ない薬を選ぶことができるようになります。

 ――ガイドラインに則(のっと)った標準治療は全国で行われているのでしょうか。

 ガイドラインが最初にできたのは2005年のこと。その翌年、ガイドラインを作成している「大腸癌研究会」に所属する医師に、「ガイドラインを日常診療における意思決定の判断基準に利用しているか」を尋ねたところ、9割ほどが利用していると回答しました。ほぼ全国で標準治療が行われているのではないでしょうか。

 ただし、いまだに、ガイドラインを逸脱して治療をしている医師もいる可能性がありますので、患者自身も、標準治療が何かを知っておくことが大切です。

 このガイドラインは、「大腸癌研究会」のホームページ(http://www.jsccr.jp/)に公開されています。

 ――手術後は、いつまで、定期的に検査を受けるべきでしょうか。

 最低でも5年間は定期検査を受けてください。その内容は、年に1回の内視鏡検査、腫瘍マーカーを調べる血液検査、肝臓などに転移がないか調べるCT検査などです。

 もし再発しても定期検査を受けていれば、早期に見つけることができます。そうすれば、再度、がんを手術で摘出するなど対処ができます。

 ――外科手術分野では、患者の体に優しい「低侵襲治療」がキーワードですね。

 体を大きく切って手術する「開腹手術」が従来、主流でしたが、今は、体に小さい穴を数個開けて手術する「腹腔鏡下手術」が行われるようになりました。痛みが少なく、早期に退院できるとされています。

 直腸には、排尿、勃起、射精に関係する神経がありますが、手術によって傷がつき、障害が残ることがありました。排尿障害や勃起不全(ED)などになれば、生活上、とても困ることになります。

 そこで、手術の前に抗がん剤と放射線で、がんを小さくして、それから手術することで、神経を傷つけないようにする「自律神経温存術」が行われています。また、肛門に近いがんでも、できるだけ機能を温存し、人工肛門をつけないようにする努力が行われています。

 薬や医療技術の進歩で、治療の選択が広がりました。医師は、治療法の提示や推奨はしますが、治療法を決定するのは患者さんです。そのためにも、自分が受ける治療にどのような意味があるのか、しっかり理解してほしいですね。不明な点があれば、納得がいくまで医師に質問してください。

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