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介護・シニア

民生委員、負担重く

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 地域住民の身近な相談役である民生委員。厚生労働相の委嘱を受ける公務員で、昨年末には3年に1度の一斉改選が行われた。独居高齢者など支援が必要な人が急増する中、その数はここ10年、ほぼ横ばい。孤独死や虐待などへの対応も求められるため、負担感が増している。(社会保障部 安田武晴)

ベテラン引退、補充難航

民生委員(中央)は子育て支援活動にも協力する(江東区有明スポーツセンターで)

 大規模マンションの建設が相次ぐ東京都江東区豊洲地区では、昨年12月の改選で、民生委員が37人から29人に減ってしまった。「73歳未満」という都の要件を超えたベテランが、相次いで引退したためだ。

 「代わりの人を探したが、新築マンションでは、自治会がないため民生委員を推薦できないところが目立つ。古い集合住宅は、高齢化で年齢の要件を超えてしまう場合が多い」。同地区民生児童委員協議会長の上野博文さん(62)は頭を抱える。

 2004年12月に約2万7600だった同地区の世帯数は、昨年12月には約4万1100に急増。反対に民生委員は減り、現在、担当世帯数は1人平均1400を超えている。上野さんは「きめ細かく活動するためにも、補充を急がなくては」と話す。

 民生委員の定数の基準は自治体によって異なり、東京23区の場合、「220~440世帯に1人」と定められている。だが強制力はなく、昨年12月の改選時、都内の49区市はいずれも、基準を満たせなかった。都内全体でも、世帯数は年々増えているのに、民生委員は04年12月の9998人から、昨年12月には9959人に減った。

 全国の委嘱数も約23万人で、02年度以降、伸びが鈍化。同年度末から現在まで、世帯数が8%増えたのに対し、1・8%の伸びにとどまる。自治会・町内会活動が下火になり、地域の連帯感が薄れたことなどから、都市部を中心に、増やしたくても、候補者が見つからない状況が目立つ。「無償なのに活動が大変」との声もある。

 小林良二・東洋大教授(社会福祉政策・運営論)は、「PTAなどの地域活動に熱心に携わってきた女性を中心に、若い層を取り込む仕組みが必要。自治体も積極的に支援すべきだ」と指摘している。

「手術の承諾」「ゴミ出し」…首かしげる依頼も

 昨夏に相次いだ高齢者の所在不明問題では、民生委員の通報が端緒となるなど、地域福祉での役割は重い。

 都内の団地で民生委員をしている60歳代の女性は、就任以来の7年間で、高齢者の孤独死を3件経験し、親類への連絡や警察への対応に奔走した。独居の認知症高齢者が介護を受けられるよう行政に相談するなど、昼夜関係なく対応してきた。だが、「これも民生委員の役割なの?」と首をかしげたくなる依頼も多い。

 急病の独居高齢者に付き添って行った病院では、医師から手術の承諾書に署名するよう迫られた。徘徊(はいかい)していた認知症の独居高齢者が警察に保護された時も、引受人の署名を求められた。警察からは、自殺者の身元確認を頼まれたこともある。

 民生委員は、住民の相談に乗り、介護や生活保護などが必要な場合、行政機関につなぐ。児童委員も兼務し、虐待防止や子育て支援活動にも協力。災害時には、高齢者や障害者の安否確認も行う。自治体の依頼で高齢者世帯の実態を調査したり、長寿祝い金を手渡したりもする。

 そのほか、警察や消防署、学校への協力、共同募金集め、地上デジタル放送の受信相談……。独居世帯のゴミ出しや食事作りまで手伝う人もいる。法律では、「住民の福祉の増進を図るための活動を行う」と明記されているものの、「『何でもかんでも民生委員』という風潮は、行政も考えてほしい」と女性は訴える。

 葛飾区社会福祉協議会が昨年行った調査によると、活動上のストレスを感じている民生委員は約5割に上る。都は2月2日、負担を少しでも和らげようと、心の健康をテーマにした研修会を初めて開く。

 金井敏・高崎健康福祉大教授(地域福祉論)は、「福祉の専門機関や専門職が不足し、自治会や町内会も弱体化する中で、民生委員が、地域で困っている人々の世話役にならざるを得ない」と現状を分析する。

地域支える「世話焼きさん」…民生委員をサポート

 地域の問題を民生委員まかせにしないまち作りも、広がりつつある。地域の“世話焼きさん”を発掘し、地域活動の要になってもらう取り組みで、民間研究機関「住民流福祉総合研究所」(埼玉県)の木原孝久所長が発案した。

 まず、地域で情報交換し、「ゴミ出しを隣人が手伝っている」「おすそわけし合っている」といった住民同士のつながりを確認。そのつながりを住宅地図に線で書き込み、多数の人を支えている世話焼きさんを特定する。

 09年から取り組んでいる北海道室蘭市の西部地区では、世話焼きさんの通報で、生活に困っている一人暮らしの知的障害者を見つけ出し、生活保護の受給に結びつけた。

 民生委員の信田有子さん(63)は、「隣近所のことは、世話焼きさんが最もよく知っている。民生委員が抱え込みがちだった独居高齢者の見守りなどを、任せることができるようになった」と評価する。

 同研究所の木原所長は、「世話焼きさんに頑張ってもらうことで、民生委員は、地域全体を見渡す“司令塔”として活動できる」と強調している。

[プラスα]90%「やりがい感じる」

 全国民生委員児童委員連合会が08年に行った全国調査(有効回答2255人)によると、約90%が「活動にやりがいを感じる」と回答した。理由は、「地域に貢献できた」「自分自身が成長できた」などが目立った。

 民生委員になった動機では、「地域のために働くことは、やりがいがある」という回答が最も多く、新任委員の約50%に達している。一方、「断り切れなかった」が47%、「月1回程度の活動で、だれでもできると聞いたので」が23%に上った。

 だが実際には、悩みや苦労も多い。「プライバシーにどこまで踏み込んでいいのか戸惑う」と答えた委員は、新任で68%、中堅で65%、各地域の民生委員協議会長を務めるベテランでも53%を占めた。そのほか、「制度改正が多く、知識や情報が追いつかない」「虐待などの予防や早期発見につながる情報が把握しにくい」などが続いた。

民生委員
 民生委員法に定められた非常勤特別職の地方公務員。20歳以上で、地域の事情に詳しく、福祉推進に意欲のある人が適任とされる。国は自治体に、75歳未満の委員選任に努めるよう求めている。町内会・自治会ごとに人選し、区市町村を通じて都道府県が国に推薦する。給与はないが、活動に必要な電話代や交通費が支払われる。
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