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医療部発

コラム

“透明人間” の悲しみ

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 以前、弊社のホームページでデザイナーをしていた女性から、1冊の本を紹介されました。彼女が現在、作っているホームページ「おはなしだいすき」(http://ohanashi-daisuki.com/index.html)を主宰する女性が本を出版したというのです。

 その女性というのは、以前、この「医療情報部発」でお伝えした石川県の特別支援学校教諭、山元加津子さん。山元さんの同僚で2009年に脳幹出血で倒れた宮田俊也さんとともに、本を作ったということです。本のタイトル「満月をきれいと僕は言えるぞ」(三五館、1500円=税別=)は、宮田さんが発した“言葉”から取ったものだそうです。

 脳幹に大出血が広がり、一命は取り留めたものの、当初、医師からは「植物状態」とまで宣告された宮田さん。宮田さんが言葉を発することができたのは、必死のリハビリに加えて、意思伝達装置があったからでした。

 その意思伝達装置を巡って、ある“事件”が起きました。宮田さんが使っている意思伝達装置が2010年8月、生産停止の瀬戸際に追い込まれていることが分かったのです。山元さんを中心に、宮田さんを支える人たちは生産存続の署名を呼びかけます。署名の輪は急速に広がり、半月で10万人以上の署名が集まりました。ついにはメーカーが生産存続を決定するに至りました。

 その運動の中核にあって、皆の気持ちを動かしたのは、「あなたに気持ちを伝えたいよ」という宮田さんの静かながら力強い言葉だったのではないかと思います。

 意思伝達装置を使って1文字1文字書いたというこのメッセージは、ぜひ、全文をお読みいただきたいのですが、一部をご紹介すると、「意識があるのに、言葉を発することのできない僕はまるで透明人間」「自分自身がここにいるという存在を気付いてもらえないこと、他人に分かってもらえないことの孤独感と絶望感は相当なもの」と、意思を周囲に伝えられない悲しさを語っています。それだからこそ、「様々な経験とリハビリを通じて痛感したことは、自分が何を感じ、何を考えているかが、相手に『伝わる』ということの大切さです」と訴えています。

 自分が感じていることや自分の意思を、言葉で人に伝える。この当たり前なことができずに、意識があるのに意思を伝えられずに絶望を感じている人が周囲にいるかもしれない。意思伝達装置によって、その意思は汲み取れるかもしれない。

 そんなことを考えさせられる1冊でした。(メディア戦略局編集部 村井 利之)

 宮田さんが使っている意思伝達装置「レッツ・チャット」について、詳しくはこちら

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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