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基調講演(1)低い乳がん検診受診率…内田賢さん

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 乳がんをテーマにした「医療ルネサンス盛岡フォーラム」が昨年11月19日、盛岡市のホテル東日本盛岡で開かれました。最初に、東京慈恵会医科大学乳腺・内分泌外科教授の内田賢さんが「増える乳がん~検診と治療の最新情報」と題して基調講演を行いました。続いて、岩手県の乳がん患者会「アイリスの会」会員の楢山勇子さん、田中秀一・読売新聞東京本社医療情報部長を交え、自己検診の方法などについて話し合いました。聞き手は、フリーアナウンサー高橋佳代子さんが務めました。

 フォーラムの詳しい模様をご紹介します。まず、基調講演です。

東京慈恵会医科大学医学部乳腺・内分泌外科教授
内田 賢(うちだ けん)
 1946年埼玉県生まれ。1973年東京慈恵会医科大学医学部卒。癌(がん)研で、乳がんの外科治療を学び、同大医学部乳腺・内分泌外科助教授などを経て、2006年から現職。
 専門は、乳腺外科、特に早期乳がんの診断、治療。乳がん検診にも詳しい。病院では乳腺外科チームで年間250件余の乳がん手術を担当している。日本外科学会、日本癌治療学会の評議員、日本乳癌学会理事など。編著に「ナースのための最新乳癌テキスト」。

 

 乳がんは、ミルクの通り道である乳管の細胞ががん化することで生じます。初期にはがん細胞は乳管の中に留まっていますが、ある時、乳管の壁を破りり乳管の外へと広がります。したがって乳がんの手術では、しこりの周りに広がった部分まで完全に取る必要があります。

 乳管の中に留まったがんを非浸潤がん、乳管の外に広がったがんを浸潤がんと言います。非浸潤がんの多くはマンモグラフィーの検診で発見されます。非浸潤がんの状態で完全に切除すれば100%治癒が可能です。日本では、非浸潤がんで見つかる乳がんは全体の10%程度です。一方、浸潤がんになるとがん細胞は乳管の外にある毛細血管やリンパ管に侵入し、リンパ節や骨、肺などの臓器に転移する可能性が出てきます。

 今、日本では乳がんが増えています。女性のがんの中で患者数が一番多いのが乳がんです。厚生労働省の統計(2005年)によりますと、患者数は4万7583人と報告されています。次いで、大腸がん、胃がん、肺がん、子宮がん、肝臓がんの順になっています。乳がんにより年間約1万2000人が亡くなっています。女性が一生の間に乳がんになる可能性は、日本人女性では20人に1人、アメリカでは8人に1人と言われています。

 このように乳がんが増えている原因はどこにあるのでしょうか。原因は一つではなく、少子化で子供を産まなくなった、出産年齢が上がった、食事が欧米化した、こうしたことが女性の体のホルモン環境に様々な影響を与えた結果、乳がんが増えていると考えられています。

 では、どのような女性が乳がんにかかりやすいのでしょうか。乳がんになる特別な要因がない人の危険度を1とすると、片側の乳房ががんになった人がもう一方の乳房に乳がんができる危険度は、約6倍と言われます。また母親、姉妹、祖母など血縁者に乳がん患者がいると、危険度は、3倍近くになります。閉経以後の人では、肥満も危険度を高めます。また閉経年齢が高い、初潮年齢が早い、つまり、生理の期間が長い人もやはり危険度が高くなります。初産年齢が高い、未婚であることも、危険度を高める要因となります。

 乳がんの増加が著しいのは、50歳以降、閉経期以降です。40歳代でも増えていますが、増える割合としては、閉経期以後の増え方が大きいのです。実際、私が手術した患者さんで調べてみると、閉経期以後の女性が約3分の2を占めていました。

検診受けていない人が3分の2

 乳がんの検診に話を進めます。乳がん検診の普及率を各都道府県別に見ますと、岩手県は24%、東京は19%でした。全国平均では20%です。岩手の方は全国平均からすると、比較的検診を受けていると言えます。この数字は区市町村などの公的な統計で、このほか自分で人間ドックを受ける方もいます。そういう方を含めると約32%が乳がん検診を受けています。検診を受ける必要のある人の3分の1が検診を受け、3分の2は検診を受けていないことになります。

 私が所属している日本乳癌(がん)学会では、毎年乳がんの手術をした患者さんについて統計をとっています。それによると、乳がんの患者さんの30%が検診で見つかっています。逆に言うと、70%は自分でしこりを見つけたり、乳首からの出血があったり、検診以外で乳がんが発見されています。

 日本では乳がん検診は、40歳から2年に1回、マンモグラフィーと触診による検診が基本になっています。欧米と一緒です。

 一昨年11月、アメリカ予防医学特別作業部会という公的組織が、40歳から49歳の女性に対してはマンモグラフィーを用いた定期的な乳がん検診を勧めないというガイドライン(指針)を出しました。

 アメリカは、8人に1人の女性が一生のうちに乳がんにかかると言われ、毎年、約4万人が乳がんで亡くなっている国です。肺がんに次いで多い人数です。したがって、約70%の女性が、マンモグラフィー検診を受けています。作業部会の指針は新聞、テレビ、インターネットで大きな反響を呼びました。指針に対し、アメリカの患者さんの団体は、今までどおり40歳から検診を始めるべきだと猛反対をしました。

 乳がん検診によって、40歳から49歳の死亡率がどのぐらい低下するのかについて、これまでに何万人もの大規模な調査が行われています。40歳から49歳の年代では乳がん検診によって、乳がんの死亡率を15%減少させることができるという科学的なデータが得られています。

 作業部会は15%の死亡率が下がる利益よりも、不利益のほうが大きいと判断したわけです。

 検診に不利益があるのでしょうか。マンモグラフィーを受けるとわずかですが放射線の被ばくがあります。マンモグラフィーに乳房を挟まれて痛みもあります。私の患者さんは「あれは、先生、拷問ですよ」と言いました。それから、検診の結果が出るまでの不安感があります。検診で異常と言われ、きのうは眠れなかったという患者さんもいます。さらに、偽陽性、偽陰性の問題も指摘しています。これはがんではないのにがんの疑いがあると言われた、あるいはがんがあったけれども見逃されたという場合です。さらに、過剰診断も指摘しています。このような検診に関する不利益をあげ、作業部会は、乳がん検診による不利益は15%の死亡率の減少よりも重いと判断したわけです。

 40歳から49歳の女性の検診は個人の自由にしなさいというのは、自由の国アメリカ的ですが、リーマンショック以来の経済状況を反映しているかもしれません。私は、15%の死亡率の減少という利益と不利益を同じてんびんにかけるのは不自然ではないかと思っています。

 作業部会はほかにも指針を出しています。それは、自己検診は推奨しない、ということです。これは大規模な二つの比較試験を基にしています。自己検診のやり方を教えられた集団と、自己検診のやり方を教わらなかった集団の比較で、両者に乳がんの死亡率に差がなかったという結果を根拠にしています。

アメリカの事例から学ぶことは…

 この作業部会の指針から私たちが学ぶことは、日本でも偽陽性、偽陰性など検診の不利益に関する問題点を、検診受診者にもう少し正確に説明するべきであることだと思います。マンモグラフィーを受けたら乳がんが全部見つかるということはあり得ません。検診にはがんの見逃しなどの負の面があることを知って受けていただくべきだと感じました。ただし、受診率がまだ30%そこそこの日本では、もっと検診の普及を図ることが優先されるでしょう。(続く)

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