すてきライフ
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身引き締まる父の強さ
役者になりたくて、故郷の青森を出て東京へ。でも、その気持ちは誰にも言っていませんでした。
両親は、ぼくが東京でアルバイトをしながら、大学受験の勉強をするのだと思い込んでいました。劇団に入って芝居をやると聞いて、ずいぶん驚いたようです。
「そんなことやめて帰ってきなさい」と、母に何度言われたことか。27歳くらいまで続きました。今でもそう思ってるんじゃないのかなあ、電話のたびに「仕事あるのか。あるならいいけど……」って。母を安心させるのは難しいです。
父は元建具職人で、将棋盤をねだるとさっとこしらえてくれるような人でした。快活な兄と比べ、ぼくはおとなしかったけれど、手先が器用だとほめてくれたことがある。今思えば、自分に似ていると、うれしかったのかもしれません。
今回の映画は父親役で、娘に「人生ってのはなあ、痛いんだよ」と伝えます。父から、直接何かを教えられたことは、あまりない。でも、自分が間違っていないときは周りが何を言っても意見を曲げない、その父の強さ、動じなさを見ると、「ちゃんとしなきゃあな」と思います。(聞き手・梅崎正直、写真・和田康司)
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吹越満(ふきこし・みつる)さん 俳優。1965年生まれ。昨年のベネチア国際映画祭に主演作の「冷たい熱帯魚」(配給・日活、29日公開、R-18指定)が出品された。
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