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「自分を見る自分」を育てる…大野裕さん

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「心を元気にする生き方」

 パネルディスカッションは「心を元気にする生き方」をテーマに行われ、慶応義塾大学教授の大野裕さんら3氏が参加されました。各パネリストの冒頭発言をご紹介します。

慶応義塾大学教授(保健管理センター)、精神科医 大野裕(おおの・ゆたか)
 1950年、愛媛県生まれ。78年慶応大医学部卒。米コーネル大、ペンシルベニア大各医学部留学、慶応大医学部精神神経科講師などを経て、2002年から現職。マイナス思考に陥りがちな患者の考え方を、対話を通して修正する「認知行動療法」の第一人者で、自殺対策研究にも取り組んでいる。
 日本認知療法学会理事長、日本ストレス学会副理事長など。一般向けの著書に『<うつ>を治す』(PHP新書)、『不安症を治す:対人不安・パフォーマンス恐怖にもう悩まない』(幻冬舎新書)など。認知療法・認知行動療法活用サイト(http://cbtjp.net)を監修。

 

 私が専門にしている認知療法、認知行動療法のお話をしようと思います。

 認知というのは、物の受け取り方、考え方ということです。私たちはみんなが同じ現実を見るのではなくて、それぞれ違った見方をします。そして、その考えに縛られてしまうことがあります。そうするとつらくなってくるんですね。

 普通はぱっと考え、ぱっと判断する。非常に効率的にいっているんですけれども、何かのきっかけでうまくいかなくなると、自分の思い込みの世界に入ってしまいます。

 先ほど加賀先生がバブルの時代の話をされていました。確かにあのころはみんなが何でもできる、ある意味での万能感を持っていたように思います。実際にそう思うことは悪くないんですね。そう思うことで前向きのエネルギーが出てくる。だけど、それが行き過ぎてしまうと、自分のマイナスの面が、弱い面が見えなくなる。一方で、自分の弱い面ばかり見ていると、自分のプラスの面が見えなくなってしまう。そうすると、生き方が非常に不自由になってきます。

 実を言うと、私はバブルのころはアメリカに留学していました。バブルの初めのころですが、ちょっとつらい時期でした。私はニューヨークにいたんですけれども、周りにいる人たちは企業から出向されて来ている方が多いんですね。そういう人たちは非常にたくさんお金を持っている。ところが、医者は留学すると、そんなにお金はないんですね。どちらかというと持ち出しになります。何となく自分が不幸に思えて、何でこんなことをしているんだろう。そういうふうに思っていました。

 帰るのも恥ずかしいし、帰らないのもつらい。家族の支えなんかもあって、そこで一頑張りしたので、ここまで来ることができましたけれども、そういうときも自分の考えの中でいろいろ思い悩むんですね。こんなところへ来なければよかった。自分の判断が間違っていたんじゃないか。そう考えるとつらくなります。

人と話すうちに自分を取り戻す

 ただ、そのときに一体何のためにここへ来たんだろう。そういうことを家族なんかと話しているうちに、少しずつ自分を取り戻すことができます。やっぱり人の存在というのは大きいんですね。自分の力でもできることなんですが、やはり人がいると、目が覚める。つまり、自分の思いの中にいる自分からちょっと目が覚める。そうすると、地に足がついた活動ができるようになってきます。つらいんだけど頑張ろうか、と。

 加賀先生は基調講演で、「時間と空間」というお話をされていました。つまり、時間がたてば変わっていく。場所を変えれば、また見え方が違ってくる。そういうふうに思えるということが非常に大きな力になります。

 私の患者さんがカウンセリングを受けながら、「あっ、分身の術を使えばいいんですね」というふうにおっしゃったことがあります。つまり、「自分を見る自分」を育てる。そういうことができれば、今のつらい気持ちから少し自由になれる。そうすると、また見える世界が違ってきて、次に進んで行こう、そういう気持ちになれるんですね。そういうふうに自分の考えをちょっと客観的に見られるかどうか。そして、そのためには自分にできること、できないこと、それを見極めることも大事だと思います。

 私たちはついマイナスのほうに目が向いてしまって、こんな病気になってしまった。こんなマイナスなところがある。そう思うと、自分がすごくみじめになってつらくなります。

行動することも大事

 その中で「自分が何をやりたいのか」「そのやりたいことをするためにはどうすればいいのか」というふうに考えられることが大事なんだと思います。そして、考えをそういうふうに切りかえるためには行動をするということも大事なんですね。

 例えば、自分が楽しめることをする。やりがいのあることをする。そういうときも、時々私たちは悲観的になっていると、「いやあ、自分の立場じゃ」「もうこの年じゃ」と、やらない理由をつい探してしまいます。だけど、やらなければ何も変わらないんですね。やってだめだったら、またそこで考えればいいんです。そういうふうに一歩前を見ることができるかどうか。これも大事なことだろうと思います。

 そして、問題があったら、それを少しずつ解決する。解決できないときには体を動かして少し気分転換をする。いろいろできることはあるはずなんです。そのできることを探していく。その中でやりたいことを見つけていく。それが考えを切りかえるということでもあるんだろうと思います。

 今の社会は非常に忙しくなっています。そのためにみんなが孤立する、そういうことが言われています。

 実際に私が監修している認知療法・認知行動療法活用サイト(http://cbtjp.net)を見ますと、夜にご覧になっている方が多いんですね。サイトの責任者の方に聞くと、「寂しい」という言葉で検索をする方が多いと聞いています。そういうふうに利用してもらえるというのは大事なことですし、もしもそういう寂しい気持ちになったときに、サイトだけではなくて、知り合いの方、周りの方に声をかけることができれば、もっとすばらしいだろうと思います。そういうふうに柔軟な考え方をしていく。そのために自分にできること、やりたいことを見つけていく。それが「こころの健康」にとって必要なんじゃないかと考えました。(続く)

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