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基調講演(1)広がる「不幸」の感覚…加賀乙彦さん

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「うつの時代の幸福論」

 1992年にスタートした本紙の連載企画「医療ルネサンス」が今月、通算5000回を迎えるのを記念した東京フォーラム「こころの健康」が昨年12月1日、東京・有楽町のよみうりホールで開かれ、約800人が参加しました。作家で精神科医の加賀乙彦さんが「うつの時代の幸福論」と題し基調講演。パネルディスカッションでは、大野裕・慶応義塾大学教授(精神科医)、海原純子・白鴎大学教授(心療内科医)、女優の音無美紀子さんが「心を元気にする生き方」について意見交換しました。

 冒頭、老川祥一・読売新聞東京本社社長があいさつに立ち、「心と体に優しい医療をテーマに連載を始めました。読者の皆様に支えられながら、最新の医療情報を分かりやすく伝えるよう心がけてきました。今後もより良い医療の実現に役立つ報道に取り組んでいきたい」などと述べました。

 フォーラムの詳しい内容をご紹介します。まず、加賀さんの基調講演です。

作家、精神科医  加賀乙彦(かが・おとひこ)
 1929年東京都生まれ。53年東京大学医学部卒。東京拘置所医務部技官を務めた後、精神医学と犯罪学研究のため、フランス留学。帰国後、東京医科歯科大助教授、上智大教授を歴任。日本芸術院会員。
 著書に、「フランドルの冬」(芸術選奨文部大臣新人賞受賞、)「帰らざる夏」(谷崎潤一郎賞受賞)、「宣告」(日本文学大賞受賞)、「湿原」(大仏次郎賞受賞)、「永遠の都」(芸術選奨文部大臣賞、井原西鶴賞受賞)など多数。
 ベストセラーになった近著「不幸な国の幸福論」では、格差が拡大する現代の日本において、「人間の幸福とはいかにあるべきか」を、小説家、精神科医としての経験をもとに論じた。

 

 2008年ことですから、もう2年前ですが、東京・秋葉原の通り魔事件を皆さんご存じだと思います。

 派遣労働をしていた青年が、多くの人を殺した事件でした。生まれながらに自分は容姿に恵まれない負け組で、しゃくにさわる。そんな不満を携帯サイトの掲示板に書いたが無視され、ばかにされたと思ってやった、という事件でした。

 本人は他人に対して非常に劣等感が強い。幸せになりたいんだけれども、もがけばもがくほど遠ざかっていく。人に訴えると言っても、実際に話しかける気はなくて、携帯サイトで話しかける。だれも返事をしない。ばかにされた。だから殺してやろうと……。

 この青年は劣等感や不遇感、孤独感を持っているんですが、今の日本人は多かれ少なかれ、そういうものを持っているのではないでしょうか。

 わずか20年前は「日本は総中流、みんな豊かになって幸福だ」という意識が広がっていました。ところが、だんだん日本は不幸になってきました。

 私は小説家ですが、同時に精神科の医者でもあります。2週に1度、ある病院で患者さんを診察しています。一番、今、病院に行って驚くのは、うつ病の患者さんが多いことです。

 しかし、うつ病と言っても、昔のように無口でゆっくりとしゃべる患者ではなくて、何か興奮して「怖くて、怖くてしようがない」とか、「早くどこかへ行って死んでしまいたい」とか言うような、ちょっと元気のあるうつ病です。

 そして、まず問題にするのは「自分の能力が人に劣っているんじゃないか」ということですね。多いのは「自分の顔形が人よりも劣っているのではないか」という発言です。

 私が見ると、私より立派な顔しているし、体格もいいのに、本人は「これで世の中終わりだ」「私には未来がない」と言う。

人と比較、劣等感に苦しむ

 どうしてそういうふうなことを言うかというと、自分と人とを比較するわけです。

 日本人というのは、人のまねするというか、ある流行に対して遅れると村八分にされるというような傾向があります。

 現在の日本について申しますと、確かに、雇用者全体の3割以上が非正規雇用者、正社員じゃないんですよね。

 そして、教育費というものに国家がどの程度出すかというと、GDP(国内総生産)比でいいますと、日本は先進28か国の中で最低レベルです。国がちっとも教育に対して保護をしない。

 医療費支出も低い。国民が持っている今の不安というのは、その辺にあるのではないかと私は思っています。

 だから、年間3万人の自殺者がある。主要先進国の中では突出して自殺者が多いんです。

 加えて景気の悪化がある。大体自殺者が急増したのは1998年の金融危機のときですね。

 こういうことをいろいろ考えますと、「日本は貧乏な国なんだ。何にも国民に対して恩恵を税金から引き出してこない奇妙な国なんだ」とお思いでしょうけれども、GDPは世界第2位なんです。今年(講演は2010年)、中国に追い抜かれるかもしれませんが、今のところアメリカに次いで日本は豊かな国なんです。

 ところが、社会保障関係の給付率は低い。じゃあどこへお金が行っちゃったんだろうと、ちょっと研究してみますと、一番多く使っているのは、日本の場合は公共事業です。

 こうした経済的な問題が、あるいは不均衡が日本を不幸にしている。確かにそういうことが、不遇感をもたらしている。そこにもってきて、幸か不幸か皆さん長生きになっちゃった。(続く)

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