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世相にメス 心臓外科医・南淵明宏ブログ

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シューカツに疑問 「そんな仕事ってあるの?」

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 先日NHKの討論番組で、若者のシューカツについて活発な議論が交わされていました。就職活動についてです。なかなか職につけない新卒者がいる、というのです。

 どうしたらいいのか、と皆さんが意見を出し合っておられました。文部科学副大臣閣下までご出席されて、さすがにNHKらしい高貴さです。若者が社会に出て仕事に就きやすいよう、職業訓練をやったりするシステムの構築や、もっと前の段階の、若者がいろいろな仕事について知識を得て興味を持つような授業をやったらどうか、などと提案されていました。

 スタジオで討論に参加されていた中学の先生は、「学校の授業は実社会では役に立たないのだから・・・」などと発言されておられ、びっくりしました。私の知る限り、学校で習った内容は実社会で役に立つものばかりです。日本の旧文部省が与えた教材を学習することは、学校時代の私にとって非常に楽しいものでした。

それで社会に通用するのか

 それにしても、今、実社会で働いている人たちは就職する前にどこかで職業訓練を受けた人達なのでしょうか? それに、職業訓練さえ受けたら誰でも社会で通用するものなのでしょうか。そんな仕事ってあるんでしょうか? 

 世の中のどの仕事も大変です。一朝一夕で学べるものではありません。悩んで苦しんで、辞めようかと一万回ぐらい想い悩み、そしてしかたなく続けているうちに何とか食えるようになる。それが仕事です。

 ノウハウやマニュアルをさらりと学習するだけでできてしまう仕事など、仕事とは言わないのではないでしょうか。どの職業でも、プロになるのは本当に大変です。地獄を経験した人だけがプロになる資格があるのです。彼らの言うシューカツする大学生のための職業訓練とはなんなのでしょう?

 現実に行われている「職業訓練」を全否定するものでは決してありませんが、「仕事」の本当のところは、「教育できないもの」とも思うのです。

教育とは「教えないこと」

 これは紀元前から言われています。荘子の「車大工」という話です。車大工は仕事を若い弟子に伝えようとあれこれ説明しますが、どうしても理解してもらえません。自分で覚えてもらうしかないということです。

 ベーブルースの「ホームランの打ち方」の逸話もあります。天才ホームランバッターのベーブルースは、病の床で「ホームランの打ち方」を見舞いに来たある有名選手に伝授します。それは左バッターであるベーブルースならば、右手の小指をグリップエンドにのせて打つ、というものでした。つまり少しでもバットを長く持て、という意味なのです。「秘密だぞ」と言われていたのに、その選手はあっさりと記者にその話を打ち明けます。ベーブルースをまねれば誰でもホームランが打てるわけではない、ということを言いたかったようです。

 禅では「不立文字」と言います。

 新聞に載っていた新刊本の宣伝広告に、「宮大工さんの新人教育とは、教えないこと」などというフレーズを見つけたことがあります。

 言わずもがな、私の心臓手術も同じです。教えられないのです。

 でも、「教えないこと」で後進を育てることはできるはずです。いや、育ってくれる環境を作ることはできる、というべきでしょうか。反面教師(!?)としては、僕も大きな自信がありますから。

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南淵明宏ブログ_顔87_87替

南淵明宏(なぶち・あきひろ)

1958年大阪生まれ。大崎病院東京ハートセンター(東京都品川区)のセンター長。心拍動下(オフポンプ)冠状動脈バイバス手術のスペシャリストとして年間200例以上を執刀する心臓外科医。

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16件 のコメント

シュウカツに役立ちそう

ジェイ

いわゆるシュウカツをして、会社で働き始めて7-8年が経ちます。 後輩の「業界勉強会」、実際の新卒面接を通じて気が付いたこと: 特に恥ずかしいとも...

いわゆるシュウカツをして、会社で働き始めて7-8年が経ちます。


後輩の「業界勉強会」、実際の新卒面接を通じて気が付いたこと:


特に恥ずかしいとも思わず「シュウカツに有利だから」ゼミに入った、サークルにはいった、勉強をした、代表をしたなどと言うのです。さすがに面接ではもっともらしい作文をしてくるのですが、上滑りした自己PRに終始します。緊張してうまく話せないというのとはまったく異なる次元です。


また、面接では衝撃的なレベルで準備をしてこない学生もかなりの確率でいます。


自己PRの作文を考えてきて欲しいわけでも、立派な志望動機を考えてきて欲しいわけでもなく、自分というものを過去から振り返り、みつめてきて欲しいのです。将来どうなるか、将来、自分がどんな風に活躍できるのかなんて、社会人になってからも迷い続けるもので、まして、学生には分からなくて当然です。だから会社には、人事部なりマネジメントという専門家があって、その人を活かせるように頭をひねっているのです。


職業訓練のようなものは、あれば活用・運用次第で有意義だとは思いますが、これも「シュウカツに有利だから」第一で使われることになったら、悪くはないかもしれないけれど、少し残念に思います。


少し外れますが、仕事が面白いか面白くないかは、仕事をはじめて慣れて、ある程度勝手が分かってこないと分からないですし、そもそも仕事を面白くする、面白さを見出すのは、賃金を貰って働く本人の仕事です。


熟慮の上で意志を持って転職している人には尊敬の念を覚えますが、「面白い仕事に就けないから会社を辞める」と簡単に言って去っていく人が、あまりにも多いことは悲しいです。

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教育バンザーイ!

イギリスおばちゃん

イギリスの大学教育は医科歯科、工学など実際的な教育、訓練が必要なものでない場合、特に人文系の場合、大切なことは論理的思考を養うことといってもいい...

イギリスの大学教育は医科歯科、工学など実際的な教育、訓練が必要なものでない場合、特に人文系の場合、大切なことは論理的思考を養うことといってもいいのではないか。文学、ラテン語、古典ギリシャ語等の古典学や英文学、歴史などの科目を専攻したことは「就活」の時にも高く評価される。


日本の「就活」で理解が出来ないことは、「新卒」しか取らない企業のことである。これのためには大学在学中に就職を決めなくてはならないことだ。イギリスの場合、大学在学中に卒業後の仕事を見つけているほうが稀である。


一つには卒論、卒業試験が厳しいので、就活との両立は殆ど不可能ということにもあるが。卒業成績は1,2-1,2-2,3と数字ではっきりでるので、それが悪いと履歴書が悪くなり、2-2と3は面接以前ではねられてしまう。 だから、卒業後「就活」をする方が普通だ。ただ、在学中から夏休みなどを利用して、いろいろな働く体験をし、出来るだけいい履歴書を作るように努力する。これをしないとなかなかいい仕事にはありつけない。


日本の大学生の大学生活を充実させるためには、既にこの動きはあるようだが、企業側が「新卒採用」という非常に融通の利かない枠を取ることだと思う。


日本人の教養程度はイギリスと比べると素晴らしく高い。どうぞその教育を大切にしてほしい。ただ、自分の頭で考え、それを言えるということには、もっと力を入れたらいいとは思うが。

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貴重なご意見ありがとうございました

南淵明宏

 ご指摘くださった方もいましたが、就職難の根本は、今は未熟だけれどもこの先どうなるかわからないポテンシャルのある若い人材を発掘しようとしない企業...

 ご指摘くださった方もいましたが、就職難の根本は、今は未熟だけれどもこの先どうなるかわからないポテンシャルのある若い人材を発掘しようとしない企業側や社会の風潮にあると私も思います。

 その前提で、シューカツを職業訓練に結びつけることの安易さに疑問を感じたことを文章にしたつもりです。

 「若者」をなめているし、「職業」自体もなめている。そういった趣旨で投稿したつもりです。

 私自身が自分自身の立ち位置をしっかり見極めることができるよう、今後も忌憚のないご意見をお願いいたします。

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