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対談(4)緩和ケアにも有効
田中 基調講演の終わりのほうで、緩和ケアのお話もなさいました。緩和ケアというのは、がんが進んで、いろいろ痛いとか、苦しいという症状が出てきたときも、放射線治療が非常に効果的なことがあるということでした。痛みというと、まず我々はモルヒネが思い浮かぶわけですけれども、痛みの治療で放射線が効果的な場合というのはどういう場合ですか。
中川 ほとんどの場合です。つまり、放射線で8~9割方痛みはとれます。ただ、放射線治療というのはできる施設もまだ限られているし、口からモルヒネなどを薬として飲むほうが簡単は簡単なんです。そういう意味では、骨が折れる心配もないし、あるいは痛み以外の症状が出ないような場合には、とりあえず薬という選択はあるんだと思います。
ただ、例えば同じ背骨に転移があっても、痛いだけじゃなくて、背骨の中を走っている脊髄を圧迫したら、これはマヒを起こす恐れがあるんです。あるいは、足の骨などに転移したものでは、体重がかかって折れてしまう危険がある。そういう痛み以外のことまで考えたときには、ある程度予想して、放射線をかけておくというのは必要かもしれません。
田中 それは予防的に放射線をかけるということですか。
中川 そうです。例えば首に転移している。このままいくと、首の転移で脊髄が圧迫されると、四肢がマヒし、手も足も動かなくなることがあるんです。あるいは、もっと上のほうで脊髄を圧迫すると、呼吸を動かす筋肉の指令が行かなくなってしまい、命の危険すらあるんです。そういう場合には、痛みが少しでも早目にやっておくという手があるんです。
痛み取るのに効果的な部位は?
田中 特に放射線が痛みをとるのに効果的な部位というのはあるんですか。例えば骨に転移するがんがありますね。骨は効果が高いのでしょうか。
中川 とてもいいです。9割で痛みがとれます。がんの痛みというのは、転移したがん病巣が骨をぐいぐい圧迫したりしてできるんではなくて、そもそもがんの痛みの8割程度は骨への転移なんです。
骨への転移というのは、例えば乳がんが大きくなってくると、どこか新天地を求め、血液の中に入る。乳がんの場合、お乳の次に骨が好き。ところが、骨はかたい。だから、骨を溶かすわけです。がんは骨を壊す破骨細胞にもっと壊せという指令を出すのですが、放射線治療はこの破骨細胞の働きを抑えるんです。
1回放射線をかけるだけで、たとえがんが小さくならなくても、破骨細胞の働きが抑えられて、痛みをとることができます。
田中 日本は、外科系の医師が10万人いるのに対して、放射線治療医は650人しかいないということで、なかなか放射線治療を受ける体制が整っていないということがあると思います。安心して放射線治療を受けられるようにするにはどうしたらいいのでしょうか。
中川 欧米では、物理あるいは工学の知識を持った医学物理士という専門家が、縁の下の力持ちとして、放射線治療を支えています。アメリカでは5000人以上、こういう医学物理士がいます。日本には名前だけ登録というような形で、400人以上いるんですけれども、実質的には数十人です。
日本ではお医者さんと診療放射線技師さんたちで、何とかやっているのですが、本当はこうした理工系の専門家が不可欠です
田中 これからどういうふうにしていけば、放射線の治療の体制はちゃんとするようになりますか。
中川 なかなか難しいんですけれども、一つはやっぱり、本来の医者の業務に集中できるように、医学物理士とか、そういう人が整備されるということです。それから、放射線治療はいいよというふうにもっとマスコミに書いてほしいです、本当に。それも必要かもしれません。
放射線での治療費、手術の6~7割
田中 同じがんを治すのに、手術で治すのと放射線治療をするのでは、どれぐらい治療費は違うんですか。
中川 総額でいうと、放射線のほうが手術の6~7割じゃないですかね。ただし、それは治療費そのものについてです。
放射線は、基本的に入院する必要がないので、高額療養費制度が適用されると、その限度額の負担だけで済みます。手術で入院した場合、差額ベッド代がかかると、まるまる自己負担になるので、差はもっと大きくなります。
田中 放射線治療を受けるということになった場合に、どういう病院を選んだらいいのでしょうか。何かヒントがありますか。
中川 まず、放射線治療の専門医がいること。650人しかいないんですけれども、これを探すのは、インターネットで「日本放射線腫瘍学会」を検索していただく。ちょっと長いので、英語の「JASTRO」、ジャストロというんですが、「日本放射線腫瘍学会」あるいは「JASTRO」、これを引いていただいて、そこのホームページに入っていただくと、「認定医」というボタンがあります。そうすると、日本地図が出てきて、例えば栃木県だったら栃木県のところを押していただくと、栃木県内で専門医がいる病院と専門医の先生の名前が出てきます。だから、まずはやっぱり専門医の病院に行くべきでしょう。
もう一つのポイントは、何人医師がいるか。やっぱり1人でやっておられるところというのは、その人が学会などに行くと、診療がとまってしまうので、できれば複数、2人以上ドクターがいたほうがいい。
そして、これはホームページに出てこないかもしれませんけれども、先ほど来申し上げている医学物理士。「おたくの病院に医学物理士の方はいますか」と、直接電話で聞かれてもいいかもしれません。電話で聞きにくいとおっしゃるかもしれないけれども、やっぱり命がかかったことですから、ぜひ、2人以上医者がいるかということと、医学物理士がいるか、そこは確認されたらいいんじゃないかなとは思います。(続く)
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