いきいき快適生活
介護・シニア
[認知症と向き合う](9)「注意障害」ゆったり構えて
私が直接担当している方ではないのですが、認知症の方から電話があり、話を聞いてほしいと言われました。持病の治療法に関する相談で、注射から飲み薬に変えたいとのことでした。
主治医に相談しやすいように内容を整理しようと、私はその方に質問をしました。しかし、私の声がよく聞こえないというのです。
質問の仕方を短く変え、「注射は何単位打っているのですか?」と大きな声でゆっくり尋ねました。すると「周りがうるさくてよく聞こえないんです」と言われます。再び質問を変え、もっと大きな声で「注射の種類は何ですか?」と聞くと「朝18単位……」と、今尋ねている内容とは違う答えが返ってきました。
家族の方が代わって電話に出ました。「周りがだいぶうるさいようですね」と聞くと「別にうるさくないですよ」と言われました。
それを聞いて、アッと思いました。私は、この方の認知症の状況をよく把握していなかったばかりか、心理的なプレッシャーをかけてしまった。その結果、ご本人はその状況から逃れたい一心で、最後の質問に、半ば当てずっぽうで答えたのだと気づいたのです。
アルツハイマー型認知症の場合は記憶障害が有名ですが、認知症があると、「注意障害」も伴うことがあります。様々な音から必要な音だけを拾いだす能力、相手の声を理解するために集中する能力、状況の変化に合わせて、今の注意を解き放ち、新しい対象に注意を向ける能力などがこれにあたります。
注意障害を伴う時は、電話でなく、静かな部屋でゆっくりと丁寧に話を聞くべきでした。注意障害と思われる人に対しては、焦らず、目を見つめながらゆったりと構えて向き合うことが大切です。(木之下徹、「こだまクリニック」院長)
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