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引札や暦入り広告… 縁起よい七福神が人気
いよいよ師走、企業名や団体名が刷り込まれたオリジナルカレンダーが出まわる季節となりました。美しい絵や写真とともに、12か分の暦がついたカレンダーは、部屋のよく目立つ場所、年間を通して貼ってもらえるという利点もあるため、今も年末年始のご挨拶品として趣向を凝らしたものが制作されています。
そもそも日本で、暦を意識してカレンダーを使うようになったのは、現在では、旧暦と呼ばれている太陰暦が廃止されて、西洋と同じ太陽暦が採用された明治5年以降のことでした。この時代の人々にとって、暦とは月火水木金土日といった七曜日を確認するためのものではなく、これまで使用してきた太陰暦と新暦を照らしあわせて、一年間の祭事や季節行事を確認するものでした。そのため昔の生活暦では旧暦と新暦が対比できるような構成になっています。
また、お正月に向けて配られる引札(チラシ)では、縁起のよい絵柄が人気を集めていました。「引札」というのは、商品の広告、開店や売り出しのチラシやビラのようなもので、お客様を引きつける札という意味から、「引札」と名付けられました。
縁起のよい絵柄で人気が高いのは七福神です。この中でも鯛を釣り上げたり、打ち出の小槌を持ってニッコリと微笑む恵比寿さんと大黒さんは人気でした。七福神は、恵比寿、大黒に、毘沙門天、弁財天、福禄寿、寿老人、布袋和尚を加えた7人の神様のことです。
特に明治時代には、初夢を見る夜、縁起のよい宝船や七福神の絵を枕の下に入れて寝ると良い夢が見られると信じられていました。
綺麗な引札は、室内の壁に貼って眺めたり、コレクションしたものを大切に保存しました。説話や歴史上の登場人物、美人画や花鳥風月なども好まれた絵柄です。江戸から明治、そして戦前まではカラフルな印刷物が希少だったため、暦入り広告や引札類は、現在のチラシやポスター、カレンダー以上に喜ばれたようです。
現在、私たちの身のまわりには優れた技術で作られた色彩豊かな印刷物が溢れんばかりですが、美しいというだけの理由で保管されることは少なくなり、紙ゴミとして処分されることが多くなりました。
時代の移り変わりとともに、テレビやネットで広告を見たり、パソコンや携帯電話の内蔵カレンダーで暦を確認するなど、印刷物以外で目にする機会も、ずいぶん多くなりました。遠い未来には、現在のような紙製のカレンダーやチラシ、ポスターなどを、懐かしく思う時代がやってくるかもしれませんね。(内藤記念くすり博物館 野尻佳与子)
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