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介護・シニア
[認知症と向き合う](8)「取り繕い」の理由 考えよう
道端で、顔見知りの人から「こんにちは」と声をかけられ、「こんにちは。いい天気ですね」と言うと、相手は笑顔で「ほんとにいい天気ですね」と返します。
続けて、こちらが「先週の台風はひどかったですね」と言うと、相手はすぐさま「本当にそうでしたね」とうなずきます。
これは一般の人の間のごく普通の会話です。ただ、この会話の相手が、アルツハイマー型認知症の人であっても少しもおかしくありません。
認知症の人がこんなにスムーズに会話ができるなんて、と思われる人がいるかもしれませんが、認知症の人には「取り繕い反応」と呼ばれる行動があります。つまり、先週の台風の記憶は全くないかもしれないのに、あたかも覚えているかのように回答する。これが取り繕い反応です。
私は周囲の人に怒られた時、しばしばその場を取り繕うことがあるので、この反応を認知症特有というのは抵抗があります。でも、とりあえず、専門的にはそういわれています。
ここで、ある認知症の人の言葉をご紹介したいと思います。
「自分の症状のために周囲の人を困惑させないよう、そして出来れば心地よく過ごしてもらえるよう、普通のフリをすることに、全身全霊を投入している」
この言葉には考えさせられました。
認知症の人は、私が取り繕うより、もっと大変な努力をしているわけです。「覚えてもいないくせに」とばかにしたり笑ったりする前に、この言葉の意味をかみしめたいと思います。認知症の人の心の有り様に目を向けるようになり、自分に甘く他人に厳しい私は、少しは人に優しく接することができるようになったかもしれません。(木之下徹、「こだまクリニック」院長)
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