いきいき快適生活
介護・シニア
口内ケアに「訪問歯科」
必要性認識薄く…周囲が配慮を
寝たきりで歯の治療に通えなくなった高齢者の自宅を、歯科医や歯科衛生士が訪れる「訪問歯科」が徐々に広まってきた。在宅で介護をする場合、見落としがちな口の中のケア。専門家による治療や衛生指導をうまく利用したい。
大阪府守口市の歯科医、吉田
「お口、開けてもらえますか」。歯科衛生士が口の中の様子をチェックしながら歯ブラシで歯や歯茎などを磨いていく。続いてヘルパーが平田さんに昼食を食べさせた。吉田さんは途中で、平田さんののどに何度か聴診器を当て、食べ物を上手にのみ込めているかどうか確認した。
吉田さんは、平田さん夫婦のかかりつけ歯科医。「最後まで口から食べられるようにしてやりたい」と妻を気遣う夫の守さん(71)の要望に応え、3年前から月1回のペースで訪問を続けている。
吉田さんは、訪問歯科の目的として〈1〉食生活の維持改善〈2〉言語機能の確保〈3〉口の中をきれいにする――を挙げる。
口の中をきれいにすることで、細菌が多い
「口の中のケアは生活の質を守るためには不可欠だ」と強調する。
訪問歯科は、虫歯や義歯などの治療については医療保険が適用になる。通常の治療費に訪問診療料などが上乗せになる。
要介護認定を受けて自宅で生活している場合、介護保険のサービス「居宅療養管理指導」を利用することもできる。介護で必要な義歯の手入れの仕方や、歯ブラシの当て方などが学べる。平田さんは、治療は医療保険、指導は介護保険のサービスを利用している。
厚生労働省の調査(2008年10月現在)によると、医療保険による訪問治療を行っている歯科医院は全国に約8200か所あり、歯科医院全体の1割を超す。
しかし、訪問歯科の必要性はあまり知られていないのが現状だ。新潟大教授らが02~04年度に要介護者368人へ行った実態調査によると、約9割に何らかの歯科治療や専門的な口のケアが必要と判明した一方で、実際に受診していたのは3割未満だった。
東京歯科大教授の石井拓男さんは「介護の現場では、体の状態に目が向けられやすいが、口の中のケアの必要性はあまり認識されていない」と指摘する。
石井さんは、訪問歯科を利用したい場合、かかりつけ歯科医や地域の歯科医師会、ケアマネジャーなどへ相談するよう勧めている。「介護の必要なお年寄りは自分で口の不調を訴えることができないケースが多い。家族や医療、介護関係者が気を配ってほしい」とアドバイスする。
訪問歯科が望ましいケース(吉田さんの話を基に作成) |
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〈1〉歯をブラッシングすると出血して痛がり、拒否する 〈2〉最近軟らかいものばかり好んで食べるようになった 〈3〉食事に時間がかかるようになった 〈4〉食事でむせることが多くなった 〈5〉口臭が強くなった 〈6〉口が乾いている 〈7〉おなかに小さな穴をあける「胃ろう」などで栄養を摂取しており、口を使っていない 〈8〉介護する側が、義歯の取り外し方や清掃方法を知らない |
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