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対談(1) 顔、腕、言葉の3つをチェック

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東京都済生会中央病院院長 高木誠 (たかぎ まこと)さん
 1954年東京都生まれ。79年慶応大医学部卒。東京都済生会中央病院内科部長、副院長などを経て、2006年から現職。07年から慶応大医学部内科客員教授も務める。
山川静夫 (やまかわ・しずお)さん
 1933年静岡市生まれ。56年国学院大文学部卒、同年NHK入局。 2000年に脳梗塞を発症、「t – PA」という薬を使う血栓溶解療法が功を奏し、マヒは体の一部で済んだ。「失語症」が残ったが、2か月半の入院と、その後のリハビリで徐々に回復していった。
コーディネーター 田中秀一 (たなか・ひでかず)
 読売新聞東京本社 医療情報部長


 田中 山川さんにご自身の体験を振り返っていただきます。ひじ枕ができない、ろれつも回らないと思ったときに、「これは脳卒中ではないか」と、ご自分でも思われたのでしょうか。

 山川 自分では、考える暇なんてないんです。突然のことですから。体を立て直そうと思っても、ふにゃふにゃになってしまって、直らないんです。そして、言葉がやっぱり、「ごにゃごにゃごにゃ」になってしまっている。

 家内はすぐに、「脳だ」と感じたようです。そして、脳の患者は動かしてはいけないという意識があったらしく、私の上にバッと乗っかって、動かないようにしてしまったんです(笑)。家内の巨体が乗っているから、苦しいんです。「どいてくれ」と言おうとしても、言葉で伝えられない。大変困りました。

 高木 山川さんは、左側の脳の血管が詰まりました。左側は言語中枢があり、失語症という症状が出て、手足は右半身にマヒが出ました。失語症と右半身のマヒという組み合わせは、左側の脳に異常が起こったことを示します。山川さんの場合、心房細動が原因の心原性脳塞栓症なので、ほんとうに突発的に発症するんです。症状が比較的重く出るので、すぐに救急車を呼ぼうと決断される方が多く、心原性脳塞栓症の方が一番早く病院に来られます。

 t ‐ PA を使う血栓溶解療法は、心原性脳塞栓症の患者が一番向いているので、早く病院へ行ったというのは、とてもいい判断だと思います。

 山川 家内が電話した、僕の友人で病院の院長が「すぐ救急車だ」と言ってくれたことが、僕は大変よかったと思うんです。

 高木 救急車を呼ぶことが一番大事です。救急車を呼んだことが早い治療開始につながるということがあります。かかりつけの先生を電話で探していたりすると、時間がかかってしまいます。もし、血圧が高いなど脳卒中になる危険性が高い方は、いざというときはここの病院にと考えておいていただいてもいいですね。

 最近は、救急隊は最寄りの脳卒中の専門病院の情報を全部把握しています。救急隊の判断で最適なところに運ぶような体制がつくられていますので、とにかくまず救急車を呼んでください。

 山川 私は救急車を呼んだために、発症から病院へ運ばれるまでが1時間ちょっとで、検査をしても2時間でした。ですから、3時間以内に、血栓溶解剤が間に合ったということですよね。

 高木 非常にラッキーだったと思います。

 田中 言葉が出なくなってしまうと、ご本人は救急車を呼べないわけですから、やっぱりご家族とか周りの方の対応が非常に大事ですね。高木さんは基調講演で、「FAST」について説明されました。もう一度、ご説明いただけますか。

 高木 FAST というのは、周りの方がチェックするポイントです。まず、F というのは顔です。脳卒中になると、顔にゆがみが出るので、周りの方は顔のゆがみがわかります。このゆがみをはっきりさせるには、イーッと笑顔をしてもらうとよいでしょう。顔がマヒしているときに、笑ってもらうと、鼻から唇のところにある溝がゆがみます。だから、イーッとやってもらって、顔を見ると、必ず分かります。

 それから、A というのは腕です。腕は、マヒしていれば、最初から上がりませんし、軽いマヒの場合には上がるけれども、「ここで止めてごらんなさい」というと、ずっと保持できないので、マヒしている側が下がってしまうんです。

 S はSpeech といって、言葉です。言葉の障害も合併することが多いです。ろれつが回っていないというのは、意外に自分ではわかりにくいことがあるんです。でも、話を聞いていて、「やっぱりちょっとおかしい。いつものしゃべり方と違う」と、周りの方が気づくことがあるので、とにかく何かしゃべってもらって、いつものとおりにしゃべれるかどうかチェックしてもらいます。

 その三つをチェックしていただいて、顔と腕と言葉、そのどれか一つが引っかかると、まず7割から8割ぐらいは脳卒中であると言われていますので、一つでも引っかかったら、まずおかしいと思ってください。ただし、この三つが全部正常の場合というのもあり得ます。

 くも膜下出血の場合は、突然頭痛がします。頭痛がするけれども、このFAST の顔、腕、言葉には引っかからないこともありますので、激しい頭痛、くも膜下出血の場合はちょっと別と考えておいてください。

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