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基調講演(3) 進歩する治療法

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 脳卒中の症状の特徴は、突然起こることです。1か月前、2か月前から、だんだん手がしびれてきて、動きが悪くなってきたというのは、まず脳卒中ではありません。

 脳卒中の症状で一番多いのは、半身の脱力感です。右半身、左半身と、片側に起こることが特徴です。それは顔、上肢(じょうし)、下肢、これらの組み合わせで起こってきます。両手が急に力が入らなくなったといったら、それはまず脳卒中ではありません。両側に同時に来るということはまずありません。

 力は入るけれども、半身がしびれる。そういう症状もやはり多いです。

 次に多いのは言語障害です。言語障害には、構音障害といって、ろれつが回りにくい、口がうまく回らなくてしゃべれないというのと、失語症といって、物の名前が出ない、言われていることがわからないという症状があります。

 頻度は少ないのですが、目の症状として出ることもあります。右半分の視野とか左半分の視野が見えにくくなってしまう症状です。

 複視といって、物が二重に見える症状もあります。片目で見ると一つだが、両目で見ると、物が二つに見える。両目を同時に同じ方向へ正確に動かすのは脳の働きなので、脳卒中を起こすと、ここが障害され、複視が起こることがあるのです。

 めまいも、脳卒中の症状ということがあります。めまいの原因は、耳の三半規管の障害から来るものが圧倒的に多いのですが、脳卒中で起こることもあります。

 脳卒中か耳か、どちらが原因なのかを区別するには、ほかの症状を合併していないかどうかに注意してください。めまいがして、同時に口も回りにくいとか、右半身の力の入り具合がおかしいとか、しびれるとか、そういう組み合わせがあった場合には、そのめまいは脳卒中の可能性があり、非常に危険です。

 くも膜下出血は、最初にお話ししたように、脳梗塞、脳出血とは違い、突発する激しい頭痛が特徴です。バタンとその場で倒れて、昏睡(こんすい)状態になって、意識が戻らないこともあります。場合によっては、即死状態になることもあります。脳卒中は、心臓の病気と違って、突然死といわれるように急に亡くなるようなことはまずないのですが、あるとしたら、このくも膜下出血です。

 脳卒中は、あまり前触れがないのが特徴なのですが、脳梗塞だけは、一過性脳虚血発作という軽い前兆が出ることがあります。脳梗塞の3割ぐらいの方が、TIAと英語の略称で言っていますが、この一過性脳虚血発作が前兆として出ます。TIAが出ると、3か月以内に10%から15%、本格的な脳梗塞の発作が来ることが多いと言われています。また、その半数が48時間以内に起こるとされています。

 一過性脳虚血発作は脳梗塞と同じような症状が表れ、数分とか30分以内ぐらいで自然に治ります。ご飯を食べているときに、おはしが使いにくく、右手が動かしにくい。でも、使っているうちによくなって、数分で治ってしまった、といった症状です。治ったから大丈夫だと安心してはいけません。この後、本格的な脳梗塞がその日のうちに来るかもしれません。

 症状が軽くても、短くても、「もしかしたら、これは前兆かもしれない」というふうに思ってください。前兆の段階で治療をすると、本格的な発作はかなり高率に予防することができます。軽いからといって、甘く見ないでいただきたい。

 それからもう一つ、周りの方が、脳卒中かなと気づくことが大事です。ご本人は、症状が出ていても、意外にわからないということもあります。でも、周りにいらっしゃるご主人や奥様が患者さんを見て、「あれ、何か変なんじゃないかな」と、気づいていただきたい。

 そういうときのチェックの仕方ですが、私たちは今、英語で「FAST(ファスト)」と覚えることをお勧めしています。FはFace(フェース)、顔です。まず、顔の症状をチェック。それから、AはArm(アーム)、腕をチェック。それから、SはSpeech(スピーチ)、言葉をチェック。

 もし、FASのうち、一つでもこのチェックポイントに引っかかった場合には、T――Time(タイム)、時間が大事ですよ、すぐ病院に行きましょうということです。FASTというのは、英語でもともと「早く」という意味でもあります。

 脳卒中の治療ですが、脳梗塞の場合には、詰まった血栓を溶かす治療(血栓溶解療法)や、血栓をできにくくする治療(抗血小板療法など)を行います。脳出血は、血圧をきちんと下げるとともに、出血が大きい場合には、血腫を除去する外科的な治療をすることもあります。くも膜下出血は、瘤の根元を金属で挟んで再出血を防ぐクリッピング手術や、脚の付け根の血管から脳まで細い管を通し、破裂した瘤に金属製のコイルを詰める治療をします。前者は開頭して行いますが、後者は開頭せずに行う血管内治療です。
脳梗塞は一般的に内科的治療、脳出血は、内科と外科、両方の治療、くも膜下出血は主に外科的な治療が中心になります。

 最新の治療法ということでご紹介したいのは、血栓溶解療法です。t ‐ PAという薬を発症から3時間以内に入れると、血栓が溶けて血流が再開し、今まで動かなかった半身が急にパッと動けるようになるといった具合に、劇的に改善することがあります。

 これは3時間以内にやらなければなりません。いろいろな検査があるので、実際は2時間以内に、病院に来ていただかないと間に合いません。

 この血栓溶解療法に限らず、脳卒中の治療は緊急を要します。症状に気がついたらすぐ、119番をして、救急車で、専門の病院に運んでもらいましょう。それが、命を救い、後遺症を少しでも減らすために極めて重要です。

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