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[科学は人類に何をなしうるか] パネルディスカッション(1) 科学、情熱で進歩

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出席者 (敬称略)
野依良治 (のより・りょうじ) 理化学研究所理事長
ハラルト・ツアハウゼン 独がん研究センター名誉教授
中江清彦 (なかえ・きよひこ) 住友化学専務
片桐敬 (かたぎり・たかし) 昭和大学長
コーディネーター
田中秀一 (たなか・ひでかず) 読売新聞東京本社 医療情報部長


つらいことない

野依 良治 氏

 田中 科学者としての研究の魅力や喜び、反対につらかったことは何か。

 野依 研究は、自分で問題(テーマ)を作るわけで、一度もつらいと思ったことはなかった。人から問題を与えられ、「早くやれ」と言われるとつらいが、私の場合、あてはまらない。

 ツアハウゼン 1回だけ、少なくとも2週間、研究をやめようと思ったことがあった。2年間の研修医の後、研究の道に進もうとしたが、難しそうで方向転換しようとした。しかし、その後、悩みを持ったことはない。あきらめないことが、研究者にとって重要な資質。しつこさとは、成果が上がらない、つらい時期を乗り越える能力を意味する。

 野依 科学研究は、問題と解答を見つけること。多くの人は与えられた問題の答えを探すが、大事なのは、いい問題を作ることだ。しかし、いい問題は降ってこないし、作るのは難しい。研究を進めると、暗礁に乗り上げることがある。これこそ天からの贈り物だ。壁にぶつかるのは、新しい問題がそこに存在するからだ。何度行き詰まっても、それが新たな躍進になった。

ハラルト・ツアハウゼン 氏

 ツアハウゼン 自分たちの独自のアイデアを裏付ける過程は楽しく、既存の(科学の)教義、ドグマに挑戦するのは非常に面白い。

 田中 若い研究者や学生には、科学の意義、楽しさをどう教えるか。

 中江 基礎科学を産業に応用し、商品開発するには、一つの知見だけではなく、様々な知見を融合しないとできない。一つの専門を深く掘り下げると同時に、違う分野の知見を広げる努力が大切だ。自分がやりたいという夢と、誰が何と言ってもやり遂げる情熱を持つこと。30~40年働く企業の研究者の場合、チャンスは1回、2回しかないので、チャンスを生かしてほしいと常に言っている。

 片桐 卒業して医療人になっても、研究を続けてほしいと思う。科学の進歩で栄養状態が改善したことが長寿の要因ではあるが、それ以外にも疾患の原因、予防法の解明や治療法の進歩が、寿命を延ばすのに貢献している。根本的な疾患の理解、新しい治療法の開発を目指さないと発展はない。

 

精神の豊かさも

田中 秀一

 田中 科学は人間の社会生活をどう変えたか。

 野依 生活の質の向上に科学技術が貢献したことは間違いない。しかし、厳密に言うと、科学と技術は違う。科学は真理の追究で、芸術と同じようなものだ。社会を豊かにしたのは、科学知識に基づく技術だ。ただ、科学的な物の考え方が、自分の自然観、社会観に大きな影響を及ぼす。その意味で、科学は人類社会にとって非常に大事。脳科学がさかんになっているが、人間の心とは何かについての探究は、昔は宗教、精神学の領域だった。今は自然科学が担う。なぜ絵を美しいと思うか、音楽を心地よいと思うか、心に対し脳科学がアプローチしている。自然科学の発展は、物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさにつながる。

 田中 確かに、科学技術の発展で生活が便利になったが、人間はどのくらい幸福になったのか。

 片桐 狭心症の発作を止める血管拡張薬「ニトログリセリン」は、発明されて100年以上たつが、これを上回る薬は出ていない。一方で、工事現場で使われるダイナマイトの主成分だ。一歩間違えると数百万人の人間を殺りくする能力を持つ。科学の進歩はもろ刃の刃(やいば)というが、良い面、悪い面があることを忘れてはならない。ニトログリセリンが作用するのは、構成する三つのニトロ(NO2基)が離れて肺静脈にくっつき、血管を広げるためだ。一方で、体の中で血管の太さ、血圧を調節する物質の一つがニトロであることも分かってきた。研究によって、様々な治療法、治療薬が作られ、その過程で人間の生理学的なものが逆に分かる。これが科学の面白さだ。

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