薬と健康 なるほどヒストリー
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怖いコロリ、虎のごとく… コレラの流行
暑くなり、食べ物が痛みやすく、食中毒に気をつけなくてはならない季節がやってきました。かつては、夏季に注意したい感染症の一つにコレラがありました。
日本で初めてコレラが流行したのは文政5年(1822年)とされます。インド、中国を経て九州へ入り、関西、東海道にそって江戸の一歩手前まで流行の波が及びました。第二次流行の安政5年(1858年)には、米国汽船ミシシッピー号の乗組員によって長崎に入り、北海道まで日本列島をかけぬけるように伝播しました。
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「虎列刺退治」 (1886年) 人々をおさえつけている怪獣は虎(こ:頭)、狼(ろ:胴体)、狸(り:睾丸)の合体したものであり、衛生隊が消毒薬を噴射している絵。この怪獣には消毒薬の石炭酸も、予防薬の宝丹も効き目がない様子。広島鎮台の某歩兵大尉がコレラのため死去したが、生前の希望により死後、遺体を解剖したら正体不明の「動物(むし)」が見つかりこれをコレラの病源であると当時の人々は考えたようだ。故事に倣い、梅酢を用いると効き目があったと述べている。
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「荼毘室(やきば)混雑の図」 仮名垣魯文編「安政箇労痢(ころり)流行記」の口絵である。コレラ大流行で亡くなる人が続出し、江戸の火葬場は大混乱となった。
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コレラは突然激しい下痢と吐き気に襲われ、体の水分がなくなり、瞬く間に亡くなってしまう病気です。その症状の激しさと進行の速さから、「コロリ」とか「鉄砲」「見急」といわれました。
緒方洪庵は著書に「虎狼痢」の字をあてています。「虎は千里を往く」という言葉と、スピードのある恐ろしい猛獣の虎のイメージを重ね合わせたのでしょうか。当時は医薬の助けもなく、人々は恐怖と悲嘆に打ちのめされました。
安政5年に出版された「安政箇労痢(ころり)流行記」の口絵にある「荼毘室(やきば)混雑の図」には、焼き場の棺桶が所狭しと並べられている様子が描かれています。死者が3万から4万人にもなったといい、名の売れた浮世絵師の安藤広重や戯作者の山東京山らもこの時にコレラで亡くなっています。
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当時はこれといった治療方法がなく、ひとたびコレラが流行すると人々は門口に呪い札をかけ、疫病が退散するのをひたすら願うしかありませんでした。
錦絵などの刷り物・コレラ絵は、庶民の疫病退散への願い、予防の心得、呪い、食事の養生が描かれていて、当時の事情を知ることができます。
中には手に負えないコレラ(の怪獣)を描いた絵や、世情不安な折にぼろ儲けすることを皮肉って、笑いを誘ったものもあります。病気の流行で社会が騒然としている中で、恐怖をふりはらおうとしたのでしょう。
庶民の心情を代弁するのに、次のような戯文「ないないづくし」も作られました。
「病の流行とめどがない」「誰でも死にたいものはない」「医者の駆けつけ間に合わない」「せわしいばかりで薬礼ない」「八つ手を吊るさぬ家はない」「にんにくいぶさぬ家はない」
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明治時代になっても、コレラはたびたび流行しました。有効な治療法がなかったので、明治政府は強制的にコレラ流行地を消毒し、患者を隔離しました。
強圧的な防疫対策に不信を持ち、反発した庶民らによってコレラ一揆と呼ばれた抗議行動も起こりました。これはますますコレラを広めてしまう結果となりましたが、かえって悪循環だということに気づく状況ではなかったようです。新聞記者の岸田吟行は「飲み水には気をつけ、食べ物の注意と、トイレを清潔に保つこと」を予防の心得に書いています。
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最近でも、新型インフルエンザやO-157などが流行し、人々の不安感が高まった時期がありました。今後も、新しい種類の感染症などが流行することはあるでしょう。そのような時には、不確かな情報に振り回されないように冷静に対処していきたいものですし、政府や関係機関にも、正しい情報を十分に周知するよう求めたいものです。(内藤記念くすり博物館 伊藤恭子)
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野菜、果物を摂ることでミネラル、ビタミンの補給をしようとすると実は大量の野菜、果物を食べなければならずまずそれは不可能。
野菜の繊維質は普通の量でも摂取できます。それなら危険な洗浄しない状態よりは洗剤で洗い十分にリンスすることで寄生虫の卵や細菌等を除去できます。ですから洗ったほうがいいですね。洗剤を口にすることが危険なら食器類も洗剤を使って洗えなくなりますよ。今、寄生虫の卵と書きましたが化学肥料を使って栽培した野菜が殆どだと思うのでこれが付いているのを探す方が大変だと思いますがね。
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「飲み水には気をつけ、食べ物の注意と、トイレを清潔に保つこと」プラス、野菜は洗剤で洗浄し魚介類、肉類はとにかくよく火を通すことです。生焼き状態ではまだまだ危険だ。それから外から帰ったら食べる前には必ず手を洗う。これはインフルエンザにも言えますね。
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