いきいき快適生活
介護・シニア
[認知症と向き合う](3)家族が変われば本人も
相手に「2+3は?」と聞かれて、私たちは「5」という正しい答えを伝えることができます。また、相手の表情を見て、「楽しいんだな」などと気持ちを察することができます。
さらに、人生を時間軸でとらえることで、もっと深く洞察することもできます。その人のこれまでの生き方を知ることで、「この人は、実は家族のことを本当に大切に思っているんだ」などと実感することもできます。
さて、認知症になったら、人と人とのこういったつながりはどうなってしまうのでしょうか。認知症は、認知機能の障害です。ですから、つじつまのあった答えを導き出すことは難しくなるでしょう。では、感情はどうか。「うれしい」「悲しい」「快」「不快」などの感情をうまく表せなくなるときがあります。家族の誰かが認知症になると、気持ちを察することが難しくなり、相手とのかかわりが苦しみにしか感じられなくなることがあります。
この苦しみは深刻です。言葉で感情をうまく伝えられない認知症の人の「声なき声に耳を傾けて」と言っても、「そんなきれい事は言っていられない」とケアをする家族は感じがちです。
ただ、私は診療という「小さな窓」を通じて、認知症の人を取り巻く家族の視点が変われば、不思議と認知症の人の言動も変わり、互いの関係性も変わってくる、という現場を幾度となく見てきました。家族のまぶたの裏には、認知症の人の元気な時の姿が刻まれています。ですが、現実の姿を受け止め、自分もやがて行く道だといった意識を持つことで、家族の視点が変わり、本人も変わってきます。認知症を介して、本人と家族との折り合いがつけば、すばらしいことだと思うのです。(木之下徹、「こだまクリニック」院長)
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