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加齢と目の健康

イベント・フォーラム

基調講演 (1) 「40歳代でもかかる白内障」

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医療ルネサンス 名古屋フォーラム


 「加齢と目の健康」をテーマに、医療ルネサンス名古屋フォーラムが3月6日、名古屋市東区のテレピアホールで開かれました。目の病気の予防と治療法をテーマにした講演と対談の模様をご紹介します。

筑波大学教授(眼科学) 大鹿哲郎(おおしか・てつろう)さん
東大医学部卒。東大助教授などを経て2002年から現職。日本眼内レンズ屈折手術学会理事長など。49歳。


 人には五感があります。見る、聞く、触る、味わう、においをかぐ。全部、重要ですが、私たちは世の中の情報の80%を目から、視覚から得ているといわれています。実際、日常生活でも、携帯電話は元々、聞いたり、話したりする道具でしたが、最近は、メールを読んだり、打ったりするというように、使われ方が変わってきています。

 このように目を使う機会はものすごく増えています。目に対する負担が非常に増えているわけです。

 話はちょっと変わります。身体の障害にもいろいろありますが、傷害保険の約款を見ると、死亡時には掛けた保険金の100%が支払われる。では、死亡に至らず、障害が残った場合に、死亡時を100として、どれぐらいお金が支払われるか。

 まず親指が切断された場合は20%ぐらい。脊髄損傷、これも重大ですが、40%ぐらい。片足がなくなると60%ぐらい、腕の場合も同じく60%ぐらい。両耳とも聞こえなくなると80%。ところが、両目が見えなくなると100%です。

 最近はクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)というようなことがいわれます。、高齢期にも豊かな質のいい生活、これが重要です。そのためには五感の中でも特に健康な視機能が非常に重要だということがわかっていただけると思います。

 そこで今日は、中高年になると一番問題になる3つの目の病気、白内障、緑内障、加齢黄斑変性についてお話をします。




 まず白内障です。目には水晶体というレンズがあります。このレンズが年齢とともに濁ってくるのが白内障です。水晶体が濁ってしまうと、光が少ししか通らず、よく見えないという症状が出ます。

 濁り方のタイプによってちょっとずつ違いますが、かすむのと視力低下が代表的です。水晶体がまだらに濁るタイプでは、光を反射してまぶしい、外に行くと目を開けていられないという症状が出る人がいます。

 眼鏡がだんだん合わなくなってくるという症状もあります。水晶体がだんだん硬くなってくると、度数が変わってきてしまう。眼鏡を毎年、作り替えなくてはいけないという方は、もしかすると水晶体が硬くなっているのかもしれません。

 白内障の患者は多く、40歳代でも、水晶体に濁りが出た初期の方が結構います。年齢とともに増え、70歳、80歳代になると、ほとんどの方が何らかの形の水晶体の濁り、白内障があります。もちろん全員が手術を受ける必要があるわけではありません。50歳代以降はどんどん増えていきます。

 白内障はご自分で目をのぞき込んでもわかりません。眼科に行って、細隙灯顕微鏡という専門の機械を使って検査をします。目に光を当て、目を拡大して見る検査です。薬で瞳孔を大きくしてから見ることで、水晶体の様子がよくわかります。

 正常なら濁っていません。真ん中がちょっと白く、硬くなってきたら、軽度の白内障です。進行して水晶体全体が真っ白になってしまうと、ほとんど人の形もわかりません。昔はこのようなお年寄りはたくさんいました。最近は早めに手術を受けられるので、ここまで悪い方はいません。

 白内障の原因はいくつかありますが、一番多いのは年齢です。加齢現象で、誰でもなるわけです。糖尿病の方も白内障になりやすい。最近、増えています。高校生や中学生でも、アトピー性皮膚炎だと、白内障の子がたまに外来にきます。ステロイドという薬を長い間使っていても、白内障になりやすい。近視が強い方も白内障になりやすい。これは体質的なこともあります。ただ、なんといっても年齢が一番大きな原因です。

 次に、白内障の治療です。初期は経過観察でいいと思います。目薬で白内障を治すことはできません。進行をやや遅らせるだけです。あえて使う必要はなく、普通にしているだけでも構いません。

 根本的な治療法は手術しかありません。では早く手術を受けた方がいいのでしょうか。あとでお話しする緑内障や加齢黄斑変性との一番大きな違いは、白内障はよっぽどのことがない限り、手遅れにならないことです。そんなに急いで手術を受ける必要はありません。

 ではどんな時期に受ければいいのか。ご自分が不自由だと感じた時が手術の時期です。医者が決めるのではありません。

 いつ不自由だと感じるかは大きく変わってきます。一応の目安をお示しします。車を運転する方は。眼鏡をかけるなどした矯正視力が0・7以上でないと運転免許更新できませんので、0・7が一つの目安になります。ゴルフをする方は、昼間、まぶしいところでプレーしますし、遠くのボールが見えないとつまらないでしょうから、早めに、軽い白内障の時でも手術を受ける方はたくさんいます。

 逆にあまり遠くのものは見ないし、家の中でテレビが見えたりとか、孫の顔が見えたりで十分なら、そんなに急いで手術することはありません。視力が0・3とか0・4でもいいとおっしゃる方もいます。

 さて、手術のために眼科へ行くと、医師から問診がありますが、そこで聞かれるポイントは、まず、いつ頃から見えづらいのかということです。だいたいでいいので伝えてください。見えづらくなる前の、矯正視力も知りたい情報です。

 他に病気があるのか、例えば糖尿病があるのか、血圧が高いのかなど体のことも尋ねられます。目の病気も重要です。白内障だけなのか、他に病気があるのかをしっかり伝えてください。

 どんな薬を飲んでいるのかも聞きます。特に重要なのは二つ。ひとつは心筋梗塞や脳梗塞に用いられる、抗凝固剤、ワーファリンとかヘパリンとかですが、これを服用している方は血液が固まりにくくなる。手術の時にちょっと問題になるので、事前に言ってほしい。

 つい最近分かったことですが、前立腺肥大症の治療薬、α1ブロッカーが目にも作用します。手術の時は瞳孔を開いて手術をするのに、この薬は虹彩の筋肉に効いてしまい、どんどん瞳孔が縮んできてしまう。手術がやりづらくなる。だから最初に、この薬を飲んでいると先生に伝えておいていただきたい。

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