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介護・シニア

[山里通信](9)小さな実に託す「村の希望」

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野外生産試作センターでは食用ほおずきやコハゼの普及に力を入れている。大沢さんが手にしているのはベイナスの苗=安斎晃撮影

 秋田県の上小阿仁村では、どの農家の庭先にもコハゼという丈の低い木が植わっている。夏ハゼともいわれる山の木で、秋になるとブルーベリーに似た小さな実をつける。その実を食べてみた。それはブルーベリーより濃厚な味がした。

 「これを売り出してみたいんです。コハゼでつくったゼリーやジャムを食べれば、目もよくなるし若返るという結果が出ましてね」

 村役場でこう言ったのは小林悦次・産業課長だ。コハゼの成分分析を大学に頼んでみると、ポリフェノールが栽培ブルーベリーの2~3倍で、目の働きを助けるアントシアニン色素も豊富との結果が届いた。これが村役場を喜ばせたわけだ。

 そのコハゼを増やすために苗木を88本植樹すると聞いて、つい「手伝います」と応えてしまった。

 山に自生していただけの小さな木に「村の希望」を託す気持ちがわかる気がした。もはや米作と林業だけでは食っていけない村は、何としても稼げるモノを見つけたいのだ。

 朝7時半に集まって向かった先は村はずれの丘。植樹を担当するのは、「村の農業試験場」のような仕事をしている大沢直仁さん(33)ら6人だった。

 穴を掘って水を入れ、苗木を埋めて支柱を立てる。これを何度も繰り返す。現場は雑木林を伐採した跡なので、スコップを地面に入れるとすぐに木の根に突き当たる。簡単に手伝うなどと言ったことを後悔するほど、汗が流れた。

 終わった時はもう夕暮れだったが、植え終えた88本の苗木を見ていると、不思議に愛着がわいてきた。

 「この村が生きていくためですから」と一緒に働いた大沢さん。村の気候と風土にあった農作物の試作と開発に、いつもこうして汗を流している。この日植えたコハゼも、3年後に大沢さんたちが株分けする。

 大沢さんが責任者を務める村の組織「野外生産試作センター」を訪ねると、農業用ハウスには、村内の農家向けに育てている苗がずらりと並んでいた。ベイナス、食用ほおずき、ミニ白菜。レタスに似た南アフリカ原産の野菜もあった。

 秋田に「ひやみこぎ」という言葉がある。労を惜しむ人、怠け者のことを指す。理屈ばかり言って自分では何もしない人は「ひやみこぎ」。簡単に一発逆転を狙うような話があるわけではない農山村では、「ひやみこぎ」は生きていけない。(編集委員 青山彰久)

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