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いきいき快適生活

介護・シニア

[禅寺料理日記](3)「手間」が深める素朴な味

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墨書の下には、花と香炉。抹茶を味わう住職夫妻=安斎晃撮影

 玄関脇の四畳半が、茶礼の部屋となっている。茶室の一隅に、先住職、盛永宗興(そうこう)老師(元花園大学長、1995年没)の墨書が掛かる。

 「請務其本(こう、そのもとをつとめよ)」の4文字。常に物事の根本に立ち帰って努力せよという、妙心寺の開山、無相(むそう)大師の言葉だ。還暦後の生活に向けて、食という原点を見直そうという試みは的外れではなかったかな――などと、勝手に納得する。

 朝食後、香りの良い線香をともすと、茶礼が始まった。全員が正座をすると「おはようございます」と一礼、この日は和尚さんが亭主として抹茶をたててくれた。張り詰めた禅堂とは違うくつろいだ空気が、香と共に室内を満たした。

 この寺を守っているのは宗豊(そうほう)住職(45)と夫人(37)の2人。日帰りや泊まりがけで座禅修行に来る人たちもいる。

 湯気上がる抹茶の(わん)が、畳の上に置かれる。茶道のように細かい作法はなく、何事も両手を合わせて一拝。これだけで喫茶は進む。

色鮮やかな抹茶=安斎晃撮影

 「斎座(さいざ)(昼食)は、きつねうどんにしましょう」。お茶を味わいながら、本日の作務(さむ)(掃除などの作業)、昼食などのスケジュールが決まってゆく。茶礼とは、スタッフ・ミーティングのことだった。

 昼前、きつねうどんの準備にかかる。

 ゴマ油で揚げた大きな油揚げを三つに切り、なべに入れて煮る。醤油(しょうゆ)を加え、お酒も少々。これだけで出汁(だし)を作る。禅寺での精進とは、肉、魚はもちろん、煮干し、エビなど一切使わない調理法を言う。

 「油揚げはカツオやイリコと相性がよく、これらを使うだけで簡単においしくできますが、お寺ですから精進だけでどこまで行けるか、やってみましょう」と、指導係の和尚さん。

 ネギを刻み、生のうどんは別の大なべを沸騰させて湯がく。準備が済んだら、食堂(じきどう)脇の天井につるされた雲版(うんぱん)と呼ばれる鉄板を木槌(きづち)でたたき、斎座を告げる。

 熱いうどんを大どんぶりに分け、なべの油揚げを乗せて出汁をかける。ネギを振りかければでき上がりだ。油揚げがないときは、白菜などの野菜を油でいためてうどんにかけたり、さまざまなバリエーションがあるという。仕上げに、ゆず酢をたらした。「油を使った時は隠し味で酢を」というのが寺料理の工夫だ。

 素朴な味だが、自分で作ったとは思えないほどうまい。

 「じっくり煮込めば、精進だけでもここまでの味が出せるんですよ」という和尚さんの言葉に励まされた。(編集委員 小出重幸)

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