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脳卒中、アルツハイマー病、うつ病「頭の病気」

イベント・フォーラム

(4)第2部:パネルディスカッション(上)

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第5回医療機器市民フォーラム

 主催:医機連(医療機器産業連合会)、医療技術産業戦略コンソーシアム(METIS)
 後援:内閣府、厚労省、経産省、文科省

パネリスト  松本 昌泰 氏 (広島大学 医学部医学科長)
 井原 康夫 氏 (同志社大学 生命医科学部 教授)
 樋口 輝彦 氏 (国立精神・神経センター 総長)
コーディネーター  前野 一雄  (読売新聞東京本社 編集委員)

 

脳卒中

 

 【前野】 第2部では、皆さんがお聞きしたいことを中心に進めてまいります。

  昨年末の「脳卒中治療ガイドライン」で、脳ドックにおける未破裂脳動脈瘤、頚動脈狭窄症などの無症候性脳血管障害について治療の考え方が出たそうですね。

 【松本】 基本的にドックは、安心を得るために受けるものです。でも、脳ドックの場合、何らかの異常が見つかることが多いです。未破裂脳動脈瘤も、サイズと場所と数、ご親族の中に破裂した方がいるか等で危険度が違ってきます。頚動脈の高度な狭窄等にも治療法があります。ただ、何かをすると副作用を伴います。セカンドオピーニオンとして、専門の先生によくお聞きし、適度に勉強し続けることが大事です。

 【前野】 私事になりますが、脳ドックの体験取材で、未破裂脳動脈瘤が見つかりました。結局、開頭して動脈瘤を挟むクリッピング手術をしました。その後、血管内治療がかなり普及して、開頭しなくていいケースが増えています。仮に病変で見つかっても慌てず、知識を十分得た上で判断することを私の体験からお勧めします。

 さて早期の脳梗塞にt-PAの治療がトピックです。ただし発症後2時間以内に病院に入り、CT等の検査機器が必要ですね。

 【松本】 24 時間CTスキャンができること、脳卒中の専門医がいることなど条件があります。脳卒中はシステム的な治療が求められる時代に突入したと思います。

アルツハイマー病

 【前野】 アルツハイマー病は高齢化に伴って増加していますが、一方で若年性アルツハイマーも増えているような気がしますが。

 【井原】 恐らく「若年性」は増えてない、以前からあったと思います。気付かなかった、社会的な関心がなかっただけだと思います。

 【前野】 アルツハイマー病を予防するワクチンには驚きました。ワクチンの見通しを詳しくお願いします。

 【井原】 Aβワクチンは1999 年に開発され、大きなトピックでした。なぜかというと、ワクチンは体の中に抗体を作らせますが、抗体は頭の中にはほとんど入っていきません。しかし、抗体の0.1~0.01%が頭の中に入れば充分と考えたのです。

 ただ臨床試験で5%の人に脳炎症状が出たため、今度はAβに対する抗体を注射する形(受動ワクチン)になりました。臨床試験の最終段階で今年中には終わるでしょう。アメリカでは一両年中に市場化されます。今、日本でも色々なワクチンの治験が始まっており、数年先には期待できます。

 【前野】 近い将来、非常に有望になり得ると期待できる?

 【井原】 治療法としては、恐らく数年以内に確立すると思います。

うつ病

 【前野】 うつ病の治療を受けている患者が、日本でも100 万人を超え、10 年前より2.4 倍増えています。SSRIなどの新薬が登場したことが背景にあるようですが、一時的な気分の落ち込みまでうつ病を心配する社会の風潮が指摘されます。

 【樋口】 一時的にうつ気分になったり、元気がなくなったりというのは誰でもあります。うつ病は、最低2週間とか1か月、うつうつとした状態が続き、睡眠障害や食欲の障害など色々な身体症状を伴ってきます。専門的なトレーニングを受けているドクターの診断には、一過性のものは含んでいないと思います。

 【前野】 うつ病は「きまじめで責任感の強い人」が陥りやすいと言われますが、最近は自分よりも他人を責めたり、職場以外では元気だったりと、色々なパターンが広がっているのでしょうか。

 【樋口】 おっしゃるとおりです。最近は現代型うつ病という言葉が使われ、それに相対するものを古典的うつ病と呼びます。古典的うつ病は、非常に几帳面で生真面目、責任感が強く、人の信頼が厚い。仕事ができる方がなりやすく、周りにご迷惑をかけて申し訳ないというパターンでしたが、最近は若い世代を中心に、こんなうつ病にしたのはお前のせいだと会社を非難するケースが出ています。

 精神的な病気は、その時代の文化の影響を受けます。几帳面、生真面目さは、戦後社会人の性格傾向でした。組織に忠実な人たちが日本のけん引者でしたが、価値観が変わり、組織が変わってきたバックグラウンドも関係するのではないでしょうか。

 【前野】 薬物療法が安易にされているのではないかと精神科医の先生が指摘されることが多いようですが。

 【樋口】 そういう側面は否定できません。これは日本の精神医療の制度とも非常に関係が深い。海外では精神科医1人が10 人位の患者さんを受け持つが、日本で50 人位持っています。精神科の医療費は低く抑えられていて、たくさんの患者さんの診察をしないと成り立たないところがあります。じっくり話を聞く診療ができない。5分間診療の中では、薬を処方することしかできません。

第5回医療機器市民フォーラムは5回に分けて掲載しています
(1)第1部:講演「脳卒中」について(2010年3月29日)
(2)第1部:講演「アルツハイマー病」について(2010年3月30日)
(3)第1部:講演「うつ病」について(2010年3月31日)
(4)第2部:パネルディスカッション(上)(2010年4月1日)
(5)第2部:パネルディスカッション(下)(2010年4月2日)
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