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医療部発

医療・健康・介護のコラム

がんサバイバーの境地

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膵臓がんの勉強会で、患者やその家族と語り合う木下さん

  「治る希望を持つが、命に執着しない」

 これは、2007年に膵臓がんの切除手術を受けた木下義高さんの生き方の智恵です。どういうことかというと、定期的な検査や治療に関する情報収集など、治すために自分でできそうなことは頑張ってやるけれど、自分ではどうにもならないことで思い悩むことはしない、という意味だそうです。

 木下さんは、これまで3度、命の危機にさらされました。最初は20歳の時、交通事故で生死の境をさまよい、次は51歳で直腸がんの手術、その次は59歳で膵臓がんの手術です。その体験を通じ、そして多くの哲学書を読み、生き方本や闘病記を読み、たどり着いた心境でした。

 自分ではどうすることもできない未来を不安に思ってくよくよするより、今を精一杯楽しもうという、とてもポジティブな考え方です。でも、重い病気にかかったら、なかなかそうは思えないのが普通でしょうから、ここまで言い切ることのできる木下さんは、ただ者ではないと思います。

 膵臓がんの患者さんと家族がお話する会合に、私もおじゃましたことがありました。その会合にいらしていた木下さんは、他の方々にもいろいろと、がん患者としての智恵を伝授しておられました。

 「高額な新しい治療法を勧めるクリニックがあるけど、貯金をはたいてでもやってみたほうがいいのでしょうか」という人には、「高いものにはまず、いいものはないですよ」と一言。「末期で手術不能と診断された父が、すっかり治療をあきらめてしまいました。家族としては何とか治療してほしいのですが」と悩む人には、「私も再発したら、治療しないことを選ぶかもしれない。お父さんの気持ちを大事にしてあげて」と諭していました。体験者の言葉だけに、重みを感じました。

 木下さんの考え方は、ご自身のブログ「膵臓がんサバイバー(生還者)への挑戦」に詳しく載っていますので、関心のある方は、のぞいてみてくださいね。

 
 

 

高梨ゆき子 社会部で調査報道や厚生労働行政を担当し、2008年12月から医療情報部。医療政策や医療安全を中心に取材。おすすめ映画は「ディア・ドクター」。今年の目標「節酒」。

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医療部発12最終300-300

読売新聞東京本社編集局 医療部

1997年に、医療分野を専門に取材する部署としてスタート。2013年4月に部の名称が「医療情報部」から「医療部」に変りました。長期連載「医療ルネサンス」の反響などについて、医療部の記者が交替で執筆します。

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