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愛華みれさんが語る

イベント・フォーラム

(3)「あの人、本当にがん患者ですか?」

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読売新聞創刊135周年スペシャルフォーラム

女優:愛華みれさん
1964年鹿児島県生まれ。宝塚歌劇団花組に所属し、85年、「愛あれば命は永遠に」で初舞台。01年に宝塚を退団し、現在は女優として舞台やテレビで活躍
埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授:大西秀樹さん
1986年横浜市立大医学部卒。神奈川県立がんセンター精神科部長を経て、06年、埼玉医科大学精神腫瘍科教授、07年から現職
読売新聞社会保障部記者:本田麻由美さん
1991年読売新聞入社。東北総局、医療情報部などを経て、00年から現職。02年に乳がんと診断される。闘病体験を通して医療のあり方を考える「がんと私」をブログで連載中

 本田: 治療中、しんどかったりすると、ベッドとか、そういうところで静かにしているというイメージがあるじゃないですか。あとは自分が親しくなったお友達の患者さんとおしゃべりをしながら気持ちを紛らわすということを私はしていたんですけれども、愛華さんは病院内探検をして、探検隊としてあちこち歩いて回られたんですよね。

 愛華: パジャマを着ると病人になると思っていたので、ジャージーを着まして。それで、女優というお仕事をしているのもあって、これはいろいろな人を見ておこうとちょっと思ったんです。

 

 内科とかいろいろ分かれているんですけど、乳がんのところだと女性が本当に多く、ピンク色で、悩みも「こうでね、髪の毛が抜けたわ」とか、そういう会話だったんです。それで内科の方に行くと胃がんの人たちが多くて、そうするともう本当につらそうと思うぐらい悩んでいたりとか。そのがんの種類によって人相が違ったんですよ。もしかして、気持ちの持ちようで引き寄せている病気なのかなと、すごく感じましたね。

 私が先生と会話をして治療を終えた後におじいさまがいらっしゃって、その先生に「あの人もがんなんですか」って聞くんですって。普通みんな暗くドアを閉めているのに、アッハッハッて笑いながら出て、「先生、もう大丈夫」って先生の方が具合が悪かったみたいな空気になって帰っていくから、「僕はあの人の後だと病気じゃないように感じるから、あの人の後にしてくれっていって申し出がありましたよ」って言われたので、私、そんな何か病院で病院らしからぬ行いをいろいろしていたかなと。

 大西: 本当に明るい性格で、私も主治医をやっていたら、きっと明るくなったんじゃないかなと思います。やっぱり大事なことは心持ちですよね。同じ時間なら、楽しむのがいいのか、それとも暗く生きるのがいいのか、時間は同じなのよねって患者さんに言われるんですね。だから私楽しく生きているって言う人がいるんだけど、それと同じですね、愛華さんの場合は。

 ただ、その中で、元気になろうと思っても元気になれない人がいるんですね、時々ね。うつ病になっちゃう場合がありますね。そういう場合は私たちのところに来ていただいて治療をすれば、元気になって帰っていきます。

 愛華: 私ね、そうは言っていますけど、うつにならなかったわけじゃなくて、実際はすごく薬が強かったのか、ちょっとわからないんですけど、気がつけばベランダに立って、このまま落ちたら死ぬのかなとか思ってみたり、ずっと立ち上がれずに天井だけを見つめて丸一日何もしない、全くの「無」っていう日もあったり。それこそ便器を抱えて、そこにずっといたり、痛いからお風呂にずっと一日入ってたりとかしていたんですね。

 本田: 私、聞きたいなと思ったのは、愛華さんみたいに明るい前向きな気持ちをお持ちの方でも、やっぱりそうやって一日中ボーッと天井を見つめたり、ベランダから下をジーッと見ていたりしちゃう。でも現実、そういうことは絶対あるわけですよね、がんの患者さんには。

 大西: うつ病になる時の予測因子というのはいろいろあるんですけど、周囲の援助が少なかったり、痛みが強かったりとかね。あと、最初からちょっとうつっぽい人だとか、そういう人たちはなりやすいと言われていて、注意が必要なんですね。それは統計学的に出ています。それから、最初から病状がよくなかったり、もともと、神経症傾向が強かったりとか、そういう方々がなりやすいというふうに言われていますね。

 本田: そういう(気がめいっている)時、一番励みになった、ちょっと頑張ろうかしらって思えるような、心に残っている言葉なんかありますか。

 愛華: 言葉というか、たまたま上級生の方が電話をくださって「実はさ。私も乳がんなのよ」っておっしゃって。ちょっと親しい上級生だったので、エエッて言って。たった1本の電話だったんですけど、それで、苦しんでいるのは私だけじゃないって思えたし、身近な人がそれを闘ったっていう、もっと近しいものに感じた時に、「何だ、私だってやれるじゃん」って気に、とってもなったんですね。

 大西: がん患者さん同士でお話しするって、とってもいいことですよね。やはり自分が孤独ではないって感覚が得られるので、僕たちの大学では「グループ外来」というのをやっていて、患者さんたちに集まっていただいているんですけど、やはり集まってお話しすると、自分たちは孤独ではないっていう感覚が得られてすごくよかったと。あと、治療の情報も得られてよかったとか、ほかの人の考え方とか生き方がわかってすごくよかったという人がいっぱいいらっしゃいます。

愛華さんの講演は6回に分けて掲載しています
(1)悪性リンパ腫と診断され…(2009年12月11日)
(2)カツ丼、ピザをぺろり (2009年12月14日)
(3)「あの人、本当にがん患者ですか?」(2009年12月15日)
(4)「放射線、ここに当てれば治るのさ」(2009年12月16日)
(5)家族は「第二の患者」(2009年12月17日)
(6)がん治療はみんなで取り組むもの(2009年12月18日)
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