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愛華みれさんが語る

イベント・フォーラム

(1)悪性リンパ腫と診断され…

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読売新聞創刊135周年スペシャルフォーラム

 「創刊135周年スペシャルフォーラム」は、「自分らしさ」「がんに打ち勝つ」「艶のある人生」の3つをテーマに9月から11月まで、全国10か所で開催してきました。その中で、9月9日に茨城会場で行われた女優、愛華みれさんの講演「がんに打ち勝つ」の内容をご紹介いたします。

女優:愛華みれさん
1964年鹿児島県生まれ。宝塚歌劇団花組に所属し、85年、「愛あれば命は永遠に」で初舞台。01年に宝塚を退団し、現在は女優として舞台やテレビで活躍
埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科教授:大西秀樹さん
1986年横浜市立大医学部卒。神奈川県立がんセンター精神科部長を経て、06年、埼玉医科大学精神腫瘍科教授、07年から現職
読売新聞社会保障部記者:本田麻由美さん
1991年読売新聞入社。東北総局、医療情報部などを経て、00年から現職。02年に乳がんと診断される。闘病体験を通して医療のあり方を考える「がんと私」をブログで連載中

 本田: まず初めに愛華さんの方から、これまでの闘病の経緯と、思ったことなどをお話しいただければと思います。

 
愛華みれさん

 愛華: 私、本当に宝塚でも、3本の指に入るぐらいの元気な人間だったのですが、ある日、首の鎖骨のところに、ゴルフボールぐらいのしこりがポコッと出てきまして。それが、何だろうと思ってさわると、ぷくぷくぷくぷく、痛くもかゆくもなかったのです。「ばい菌が入ったからかな」なんて言いながら病院に行きますと、「リンパ腫だと思われるので舞台を降板できますか」と言われて。

 今は笑えるようにはなりましたけど、実際は本当にうろたえてしまいました。私のは「ホジキンリンパ腫」という種類でした。日本人はだいたい「非ホジキンリンパ腫」らしいんですね。だけど私の場合は少ない方の、ちょっとアメリカ人とかに多い方だって言われて。抗がん剤を私は6セットやって、あとは放射線治療をやるという治療法になりましたね。

 みんなに話すと、(顔が)曇るんですよ。その曇る雰囲気が「何だ、恐ろしい病気なの?」っていう印象をとっても受けて、これは普通の病気じゃないという印象を私は感じました。

 本田: 私自身も乳がんの闘病の経験があり、今もホルモン治療のお薬を飲んでいます。がんになったばっかりの時、もしくは診断を受けた時って、周囲の人の「えっ、大丈夫なの」という、ちょっと引いたような感覚に、逆に自分で頑張ろうという気持ちが萎(な)えてしまう時がありますよね。

 愛華: 周りから恐怖を教えられるというか。私、とっても楽観的で、あんまりマイナス思考を持ってないんですけど、皆さんの曇る雰囲気とか、「この人大丈夫?」っていう空気で、だめかもしれないって思いました。

 本田: もう大変お元気で、舞台で活躍されているんですけれども、ここで、先ほどからお話しいただいた、患者さんが告知を受けた時の思い、またそういう周囲の反応に惑わされる思いとか、一般のがんの患者さんというのはどういう気持ちの経緯をたどるのか、ご専門の大西先生にご説明いただきたいですが、よろしいでしょうか。

 
大西秀樹さん

 大西: まず、がんの告知を受けた時、つまり悪い知らせですね。悪い知らせというのは、「今までの人生を根本から否定する話」というふうに僕たちは言います。自分が「がんです」と言われた場合、どうなるか。今、愛華さんがおっしゃったように、うろたえるとか、震えが来るほどの恐ろしさを感じる、これが典型的な反応なんですね。

 人間というのは大体1週間ぐらい、それに打ちのめされる状態が続きます。ですけど、人間というのは立ち直る力を持っています。ショックからちょっと抜けてくると今度は、「自分はがんだ、どうなるんだろうと」。現実が少しずつ見えてきて、「これからどうなっちゃうんだろう、家族はどうなるんだろうとか、あと仕事はどうなる?」というふうに不安感が出てくるんですね。

 2週間ぐらいたってくると、現実に立ち向かう力がだんだん湧(わ)いてくると一般的に言われています。ただ、人によって違い、それが長引く人もあれば、短い人もいる。千差万別なんですね。その点を考慮しながら診療しています。

 我々医療側は、がんの治療がかなり進歩したなというふうに考えているんですけど、多くの一般の方は、死を連想するので、その死というニュアンスが患者さんに伝わって、患者さんがショックを受けるという形になるんですね。

 愛華: 先生、私の場合は、用紙をまずいただいて、「告知をしますか。どの程度までしますか。余命とか書きますか」とか、いろいろな項目があるアンケート用紙をいただいたんですね。それを記入して提出したら、大きい病院だったので、それが先に行っていて、実際、頭頸(とうけい)科の先生が告知をしようと思っていたのに、血液腫瘍(しゅよう)科の先生が既に告知を済ませた後だったんです。

 だから、告知をされるというのではなく、だるま落としみたいにスコンと、「あれ、今、告知?」という感じで告知を受けてしまったんですね。そういうのって、その患者さんのタイミングというのは違うものですか。ちゃんと受けるぞって受けたのと、私はだから、かえってそれがよかったっていうか、変な予測がなかったので、「これが何? 今告知だったのかな」っていう、あいまいにできて自分はよかったんですけど。

 大西: 愛華さんの場合にはそれでよかったでしょうね。人によってはやはり、一人じゃつらいから誰かと一緒のほうがいいとか、そういう人もいらっしゃいますよね。かなり千差万別です。

 今は患者さんにどこまで聞きたいかというふうに言うことが多くなっています。我々もどこまで話していいか、それを患者さんと話しながら、「段階的な告知」といって、最初にちょっとずつ言う場合もあるし、「全部最初から言ってくれ」という場合には、全部言う場合もありますね。

 
本田記者

 本田: スパッと初めからいろいろな数字並べられても困っちゃう人もいれば、それが聞きたい人もたまにはいるかもしれない。そういう関係性をつくっていくのというのも大変ですよね。

 大西: 本当に関係性ができていないうちにいきなり言ってしまうと……。言わなきゃいけないんですけどね、治療のためには。だけど、その短い時間の間でちゃんとした伝達をする、それは医療側には今後、求められてくると思いますね。

 本田: 先生、立ち向かう気持ちになったとしても、また治療しながら揺らいだりするということをずっと繰り返していくのが、私の経験上はそうなんですけれども、何か傾向というのはあるんでしょうか。

 大西: これも人によって違うんですけど、今僕が話したのは、元気な人の話ですね。精神科の診断がつかない場合なんですけど、もし100人のがん患者さんがいたとして、私が診察したら、何人に精神科の診断がつくか。20人か、30人か、50人、ないしは10人。どれが正解だと思いますか。答えは、50人です。2人に1人は精神科の診断がつくと言われています。

 愛華: あなどっていました。日本の医療ってすごいですね。

 大西: 一般的に言うと、2割から4割には不安とか抑うつ、それも精神科の介入が必要な不安・抑うつの人がいるので、それらの方々には精神的なケアが本当は必要なんです。

 愛華: 私ね、実際は(精神疾患という診断が)つかなかったんですけど、ついてほしいぐらい、実は、ここで初めて言うような感じもするんですけど、ちょっとうつにもなるじゃないですか。本来は、100人患者がいたら100人についてほしいですよね、先生。

 大西: 精神科の診断がつかないというだけで、本当は皆さん、不安、抑うつを抱えているんですよね。

 本田: 私は結構、検査結果がころころ変わったので、そのたびに落ち込むということがありました。

 大西: 検査は、なりますね。

 本田: そのたびに落ち込んだり、うつっぽくなったりするんですよね。「何て私って弱い人間なんだ」と。「ほかの患者さんはみんな、あんな元気に治療に行っているじゃないか」って、逆に今度は自分で自分を責めちゃうみたいなことになるんですけど、みんなが通る道なのですね。

 大西: 「検査値のジェットコースター」って言われているんです。1個上がると気分が上がって、落ちるとスッと下がるから、ジェットコースターって言われている。「みんな、ジェットコースターに乗っているような気分」だって言いますね。

愛華さんの講演は6回に分けて掲載しています
(1)悪性リンパ腫と診断され…(2009年12月11日)
(2)カツ丼、ピザをぺろり (2009年12月14日)
(3)「あの人、本当にがん患者ですか?」(2009年12月15日)
(4)「放射線、ここに当てれば治るのさ」(2009年12月16日)
(5)家族は「第二の患者」(2009年12月17日)
(6)がん治療はみんなで取り組むもの(2009年12月18日)
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