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(6)会場からの質問に答えて

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読売新聞創刊135周年スペシャルフォーラム

講師:作家 瀬戸内寂聴さん 87歳
1922年徳島市生まれ。57年東京女子大卒、作家デビューし、以来、数多くの著作を世に出す。73年に出家、著作も続け、「源氏物語」の現代語訳はミリオンセラーになる。2006年に文化勲章を受章。

 私はしゃべった後、質疑応答の時間をとるようにしているんですけど、今日は調子に乗ってしゃべりすぎて、その時間がなくなってしまったみたい……。え? 何……?

 30分くらい、大丈夫みたいです。遠慮せずに手を挙げてください。

 「主人が先月、がんで亡くなりました。今後1人でどういう生き方をしたらいいか、私にも迷いがありまして、アドバイスをお願いします」

 受け入れられないのは当たり前なんです。こないだ亡くなったばかりなら、風が吹いても雨が降ってもお天気でも全部ご主人と結びついてつらいんです。悲しいときはところ構わず泣いてください。恥ずかしくもなんともない。悲しいんだから。

 

 でも、同じ状態は続かないの。人間にはどうしても「忘れる」という能力も与えられているの。忘れはしないけれど薄れていきます。「日にち薬」という言葉があります。日数がたつことによって、それがお薬のようになって心の傷を癒やしてくれるということなんです。今は朝から晩まで思っていても、ふと気がつくと、「あ、朝は思い出さなかった」という時が来ます。その時を待ってください。今はただただご主人のことを思ってください。

 それでね、亡くなった人は今お墓に入ってないという歌がはやっていますね、あれ困るのよね(笑)。だけどね、私もお墓の中に入ってないと思うの。あんな暗いところ一日入っていたらつまらないから、寝には帰ると思うけど。だから昼間はあなたのところに来てます。

 なぜここにいらしたのかは知りませんが、まあ、読売新聞をとっていたから来たんでしょうけど(笑)。読売新聞をとったのはあなたじゃなくて、ご主人だと思うの。新聞もご主人の形見だからやめないでね(笑)。ご主人の生きてたようにしてください。亡くなった人の魂は、この世で一番愛する方のところへ来てます。

 だから風になって吹いてるんじゃないのよ。

 その愛する人のそばにきていつも助けてくれているんです。一番前にいるってことは早くから来てるのよ。ということはご主人が寂聴さんの話を聞いてきたら気が晴れるよっていうのでここに連れてきてくれたの。

 そこにご主人がいらっしゃるの。私は見えないけれど、多分そこにご主人はいらっしゃるのよ。これからもご主人の声を聞きながら行動してください。亡くなったけれども、あなたの中に一緒に入ってるのよ。かえって寂しくないと思いなさい。

 「今日のテーマとはちょっと違う質問なんですが、先生も若いころ、熱烈な恋愛をなさって突然仏門に入られたと聞きました。仏門に入るとなると、そういった男女関係は一切絶たなければならないと思うのですが、そんな時の女心がどういったものだったのかお聞きしたいのですが」

 仏門に入るっていうことは、そういうことを一切しないってことなの。私は頭をそってからそういうことは一回もしていません。あなたのようないい男を見ても心はワクワクしないの(笑)。不思議なことに寂しくないの。努力してるんじゃないの。頭をそってみないと分からない心境なのよ。私の師匠の今東光さんが、出家することは仏さんと結婚することだって言ったんですよ。仏さまの思うとおりに動いているの。だから、男が欲しいなんて思ったことない。

 「今年の冬、別居していた夫を亡くしたんです。まだお墓を買っていないんですが、その夫を1人のお墓にいれていいものか悩んでいるんです。私は一緒に入りたくないって思うんです」

 一緒に入れない方がいいんじゃない? あの世に行っても嫌な思いしたくないじゃない。死ねば、あなたも仏さまになるの。向こうも仏さまになる。今は嫌だと思っていても、死んでしまえば憎しみとかはなくなるんですよ。娘さんにまかせてみてはいかがですか?

 縁というものは不思議なもので、なかなか切れないものなんです。今嫌だと思っているのなら、無理にすることないです。放っておきなさい。

 「若い方にうつ病とか自殺とか多いんですが、先生はそういったことをどういう風にお考えになっていますか?」

 自分で生きてきたわけじゃない、何かによって生かされているんだ、ということを教育でもっと教えなければいけない。自分で自分の両親を選んで、柏に生まれようと生まれてきたわけじゃないんですよね。気がついたら、自分の両親のもとに生まれている。何か目に見えない、宇宙の大いなる生命なんだと思います。それをキリスト者はキリストと言い、仏教者は仏さまと言う。その意思によってこの世に生まれてきて、だれかと仲良くしたり、子供を産んだりしてる。

 自分で自分の命を絶つなということ、殺すなかれ、殺させるなかれということを小さな頃から教えるべきです。周りの人たちが幸せになるためにその人が生まれてきたのだ、ということを教えてあげてください。

 「以前、先生の書かれた本に、亡くなったお姉さまのことが書かれていて、亡くなった後に口をパクパクしたと書いてあったんですが……」

 人は亡くなっていく時、いろんな感覚が消えていくんですけど、耳(聴覚)が最後まで残っているんだそうです。それを思い出して、医師も引き揚げて、病室に2人だけになった時、ふっと聞こえてるんじゃないかと思って「私の声が聞こえてるなら口をぱくぱくして」って言ってみたんです。そうしたらそれまで死んでいたと思っていたはずの口がぱくぱく動いたんです。

 後で医師が「声が聞こえたのではなく、口が動いたりすることは医学的にある」と言われました。それでもいいんです。その時、死んだ姉と心が通じた気がしたんです。自分の都合の良いように取ればいいんです。

 「500いくつある作品の中で、さきほど先生が2~3、賞をもらってもいいものがあるとおっしゃっていましたが、それはなんですか?」

 そんな恥ずかしいこと言えないわ(笑)。毎回毎回、私は一つ書くたびに今まで書いた中で一番いいと自分で認めているんです。ただ一つだけ賞をくれるべきだと思うものはあるの。湯浅芳子というロシア文学者について書いたものがあるんです。非常にいいものなんです。これは賞をくれると思っていたんですけど、見事にくれなかった。賞はもらえなかったけれど、他の作家の方々が随分認めてくれました。私でなければ書けないものなんですよ。「孤高の人」という本です。

 「瀬戸内寂聴会館を作ろうじゃないかと盛り上がってるんですが…」

 記念館なんて結構!! なぜなら、たくさんの人からお金をいただかなきゃいけないんです!世話人がいて、頭を下げてくれてお金を集めてくる。もう、そういうのはたくさんよ。

瀬戸内さんの講演は6回に分けて掲載しています
(1)小説家への道(2009年12月2日)
(2)小説家で食べていくことの難しさ(2009年12月3日)
(3)本や新聞を読まなきゃダメ!(2009年12月4日)
(4)長生き→病気→金がかかる(2009年12月7日)
(5)常に「これが最後かも」と生きる(2009年12月8日)
(6)会場からの質問に答えて(2009年12月9日)
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