作家 絲山秋子(いとやまあきこ)さん 42
一病息災
[作家 絲山秋子さん]躁うつ病(2)気分高揚し猛烈営業
発症して自宅療養し、4か月後の1999年初頭、通院しながら住宅設備機器メーカーの職場に復帰した。張り切って働いたが、わずか3か月で埼玉県に転勤が決まる。「心配をかけたお客さんに、『十分休みましたんで今まで通り使って下さい』と話していたのに。悔しかった」。会社側は「実家の東京に近い」と配慮したつもりのようだが、ショックは大きかった。
「埼玉では、病み上がりでもきちんとできるんだと示したくて、これ以上ないほど働きました」。会社では1か月間に回る営業先を「目標100件」としていたが、月140件の訪問を3か月も実行。営業中は気分が高揚し、2台目の自家用車を衝動買いした。そんな8月のある朝、わけもなく突然、「死ぬなら今日だ」との思いにとらわれた。
通院するうちにため込んだ抗うつ薬や睡眠薬を計200錠用意して出勤。仕事を終えた夕方、8階の屋上へ。薬を飲んで飛び降りるつもりだったが、飲んだ途端その場に倒れ、気がつくと病院のベッドにいた。
「躁の時の自殺衝動は、思い立つとためらいもなく実行に移してしまうから、死に至る確率が高いそうです。今思えばこわいけれど、あの時は、自殺未遂するまで再発に気づきませんでした」
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