作家 絲山秋子(いとやまあきこ)さん 42
一病息災
[作家 絲山秋子さん]躁うつ病(1)闘病が作家への転機
病気とは10年余のつきあいになる。その間の闘病が、仕事人間だった企業の女性総合職を、作家に変えるきっかけを作った。
2003年に文学界新人賞に選ばれデビューしてから、04年に川端賞、06年には「沖で待つ」で芥川賞受賞と、順調に作家としての地歩を固めてきた。しかし、元々「なりたいと思ったことは一度もなかった」という。初めて書きたくなったのは、会社を休み、入院した時だ。1999年夏からの5か月間。前に好きだった人のこと、会社で出会ったおもしろい先輩のこと、思いつくまま書きつづった。
「あの入院は私の小説のふるさとみたいなもの。出発点と言ってもいいでしょう」
発症は98年夏。住宅設備機器メーカーの営業として、群馬県高崎市で勤務していたころだ。自然に恵まれた環境と温かい人々に囲まれ、満たされた毎日。なのに、なぜか仕事ができなくなった。
「会社を出て、お客さんの事務所に着いても、どうしても車から降りられない。公園で時間をつぶし、『なぜできないのか』と落ち込みました」
そんなことを3週間繰り返した末、うつ病と診断された。休職し、自宅療養を始めてしばらくすると、今度は気分が落ち着かない。実は、躁うつ病(双極性障害)とわかった。
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