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歌手 橋幸夫(はし ゆきお)さん 66

一病息災

[歌手 橋幸夫さん]母の認知症(3)始まった徘徊 病気を認識

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 「変な男がこっちを見てる。追い払ってよ!」

 母・橋サクさんには度々、幻視の症状が現れた。夜中に突然大声を出し、他の人には何も見えないのに、だれかがいると言いはった。別の夜には、「助けてー、幸夫に襲われる」と叫び、息子に乱暴されるという妄想におびえた。

 妻にこんなことを切り出したこともある。「私見たのよ。さっき部屋で、幸夫が女の人と抱き合っているのを」。実際、一緒にいたのはレコード会社の男性社員だった。

 かと思うと、元の母らしい表情を見せ、「ごめんなさい。これまでのことは全部私の()でした」。しかし翌日には、また逆戻りした。

 不可解なことを言い始めた1984年から4年後の88年には、徘徊(はいかい)が始まった。「このころになってようやく、母が病気だと認識しました。当時は、今のような知識も情報もありませんでしたから」。かかりつけ医に相談してはいたものの、病気とまで考えなかった。「母に限ってまさか」という思いが強かった。

 とはいえ、さしたる治療はなく、「言動を否定しない」という対処法を教わった程度。「ありがたかったのは、妻が愚痴もこぼさず、前向きな姿勢で介護に臨んでくれたことです」。しかし、介護負担の重さに変わりはなかった。

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