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一病息災

闘病記

[エッセイスト 千住文子さん]心臓弁膜症(3)手術に恐怖心より好奇心

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 手術のために、子供たちが探し出した心臓外科医は、神奈川県の大和成和病院院長、南淵明宏さんだった。

 年間約200件の心臓手術を手がけるスペシャリスト。長女のバイオリニスト真理子さんと次男の作曲家・明さんがテレビで見て、「この医師に出会っていたら父は助けられたのに…」と思った人物だ。

 77歳の時、夫は高齢を理由に心臓弁の手術を断られ、他界した。自分はその年をすでに越えていた。

 診察の時、「もう80歳になります。本当に手術できるんですか」と率直に尋ねた。南淵さんは「同じぐらいの年の人も大勢手術しています」と穏やかに答えた。検査でも手術は可能と確認された。

 それでも子供たちには不安があった。明さんは母の決心が鈍るのを恐れ、「手術をやめるなんて言わないでね」と毎日のように口にした。手術が近づくと、長男の画家・博さんは「自分の意志で決めた?」と確かめたがり、真理子さんは手術前日、「今だったらやめられるよ」と言い出した。

 「子供たちも心が揺れたんでしょう」と振り返る。

 「大丈夫。私は楽しみなの」と答えた。心臓を止めて行う手術がどんなものか、恐怖心より好奇心が勝っていた。

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