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サリドマイド、規制強化の声

 
医師が個人輸入して使われている英国製のサリドマイド(メキシコ製は白い錠剤になる)

 骨髄腫治療に効果報告←→妊婦以外にも副作用

 約四十年前、世界で四千人近い子どもに先天性障害をもたらし、悪魔の薬と言われたサリドマイドが今、一部の人たちに「命の薬」と呼ばれている。血液のがんの一種「多発性骨髄腫(しゅ)」に効くとされるためだ。薬害の後に承認が取り消され、医師が外国から個人輸入して処方しているが、使用実態は不透明で、一部が行方不明になった例もある。妊娠初期の女性が一錠でも飲めば、悲劇の再来だ。国は緊急に規制ルールを設けないといけない。 (増田 弘治)

 一転して復活

 サリドマイドは西独(当時)で鎮静・睡眠薬として発売され、日本では胃腸薬にも配合された。「妊婦や児童にも安全無害」とされ、つわりの治療薬にも使われた。

 ところが胎児の新しい血管の成長を妨げる作用があり、難聴や極端に小さな手足、内臓障害などを持った子どもが生まれた。回収の遅れた日本では三百九人が被害認定を受けた。

 しかしその後、ブラジルなどでハンセン病に使われ、九八年には米アーカンソー大が多発性骨髄腫への効果を報告。いくつかの国でこれらの病気に認可されている。

 日本では二〇〇〇年以降、医師が厚生労働省から「薬監証明」という個人輸入許可を受け、保険外で処方するようになった。二〇〇一年度は英国、メキシコなどから約十六万錠が輸入された。骨髄腫患者の会や輸入代行業者の集計だと、昨年秋までに約三十八万錠が入り、服用者は千三百人を超す。昨年十一月には大阪市の元製薬会社研究員と製油会社がヤミ製造して病院に納めていたことも発覚した。

 
骨髄腫患者の阿部勝美さん(演壇)は「命の薬」と呼び、薬害を起こさない管理方法の確立を訴えた(2月16日、東京の共立薬科大で)

 薬理作用は不明

 この問題を考えるシンポジウムが二月に東京であった。骨髄腫患者の阿部勝美さん(52)は自らの体験を語った。

 「抗がん剤などの標準的な治療では効果がなく、最後の手段として二〇〇〇年十月から自治医大病院で服用を始めました。一か月後、病気の悪化の目安になる『Mたんぱく』の血中濃度が一気に標準値まで下がり、現在もほぼその状態を維持できています」

 慶応大の医師は「難治性骨髄腫の三十九人に投与し、十五人に一定の効果が得られた」とこのシンポで発表した。

 他のがんや各種の難病に効いたという報告も国内外で出ている。だが薬理作用は今なお不明だ。▽がんに栄養を送る血管の成長を抑える▽細胞分裂に必要な遺伝子の転写を妨げる▽体内で分解して生じる物質ががん細胞を攻撃する▽人体の免疫力を高める、といった説がある。

 
「いしずえ」の間宮清さんは自らの体験を語り、「被害者は危機感を募らせている」と強調した(2月16日)

 様々な危険性

 このシンポはサリドマイド被害者団体「いしずえ」が主催した。自身も被害者である間宮清事務局長は「必要とする患者がいる以上、絶対使うなとは言わないが、管理が徹底されず、患者以外に流出することを何よりも恐れている」と訴えた。

 その不安を裏付ける事実を横浜市の民間病院の医師が明かした。処方した薬の一部が返却されず、行方不明の状態だという。「患者には十分に危険性を説明したが、法的規制がないと防ぎきれない」と医師は語った。

 妊婦でなければ安全な訳ではない。米国では抗がん剤との併用で血栓症が増えることが報告され、慶応大では骨髄の造血機能を強く妨げる副作用が見つかった。NPO法人「医薬ビジランスセンター」の浜六郎理事長は「血栓症の起きる率は十八倍になり、死亡例もある。延命効果の証拠はなく、命を縮める危険の方が大きい」と厳しい見方だ。

 毒物指定の提案

 米国ではハンセン病薬として承認した際に「STEPS」という特別な制度を設けた。〈1〉医師と薬剤師は事前登録〈2〉患者への徹底教育〈3〉処方できる量の制限〈4〉飲まなかった薬の返還義務〈5〉男女とも確実に避妊し、定期的に妊娠検査する義務――などだ。

 日本では、厚労省が医療機関のレベルも絞らずに大量の個人輸入を許しながら、「未承認薬の使用は、医師と患者の責任」として、野放図な状態を放置してきた。薬事法の範囲外とされ、現状では副作用の報告義務さえない。

 骨髄腫患者の会は新薬としての承認と保険適用、いしずえは管理強化のための毒物指定を厚労省に要請した。

 同省安全対策課は「新薬として臨床試験を行う可能性も考えている」と言うが、手を挙げそうな企業はなく、国主体の臨床試験を求める声もある。どの方法にせよ、共通する願いは、明確な手順に基づく徹底管理だ。

 ブラジルではすでに九十人近い障害児が生まれている。

 【サリドマイドの歴史】

1953    西独で開発

1957・10 西独で睡眠薬として発売

1960・8  日本で胃腸薬として発売

1961・11 西独のレンツ医師が先天異常の危 

        険性を警告、欧州で回収

1962・9  日本で回収を開始

1971・9  大日本製薬が製造承認を返上

1974・10 統一原告団と国、企業6社が和解

1994    血管新生抑制作用が発見される

1998・7  米でハンセン病薬として承認

     12 米の大学が骨髄腫に効果と発表

2000・1  骨髄腫患者用の個人輸入が始まる

2002・10 厚労省が輸入実態の調査を開始

2003・1  厚労省が使用実態の調査を開始

 ◆財団法人いしずえ(サリドマイド被害者団体) 〒153・0063東京都目黒区目黒1の9の19。03・5437・5491、FAX03・5437・5492。

 ◆日本骨髄腫患者の会 〒184・0011小金井市東町4の37の11。http://myeloma.gr.jp/index.html

 ◆本「神と悪魔の薬サリドマイド」(トレント・ステフェン、ロック・ブリンナー著)日経BP社03・3238・7200、1800円

 【多発性骨髄腫】 国内の患者は約一万人。免疫抗体を作るリンパ球が変異して増殖し、異常な「Mたんぱく」を作る。骨折が増え、様々な臓器に障害が起きる。抗がん剤などで進行を抑えるが、平均余命は二、三年。根治を目指して血液内にある造血幹細胞の移植が試みられている。

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