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医療・健康・介護のニュース・解説

3Dプリンター 臓器内部も再現

手術説明や教育に有効

3Dプリンターで作った肝臓の模型。透明な樹脂で作っているため、中の血管が透けて見える

 印刷する感覚で手軽に立体物を作ることができる「3D(スリーディー)プリンター」。十数万円の安価な製品も登場し、医療や科学の分野でも注目が集まっている。(伊藤崇)

 生体模型を手がける「ファソテック」(千葉市)に展示されている脳の模型は、ぷにゅっとした触感が妙にリアルだ。「3Dプリンターで作りました」と担当者の木下智裕さんは話す。

 「D」は「次元」を意味する英単語の頭文字。つまり、3Dプリンターとは3次元(立体)のプリンター。だが、紙に文字や絵を印刷するふつうのプリンターとは違い、コンピューターに保存してあるデータをもとに立体模型を作る装置だ。脳の模型は、脳の輪郭のデータで型を作り、樹脂を流し込んで固めたものだ。

 ファソテックの展示コーナーには、透明な肝臓の中に血管が見える模型や、骨や臓器が透けて見える少年の胸像なども並ぶ。内部の構造まで再現するこのような模型は、型に樹脂を流し込む従来の方法では作れない。作りたい立体を薄く輪切りにしたデータを作製し、0・01~0・1ミリ・メートルの厚さで1層ずつ作りながら積み上げていく3Dプリンターなら、それができる。

CTデータで

手術トレーニング用の胸部の模型

 医療の現場では、すでに3Dプリンターで作った模型が使われている。病院には、CT(コンピューター断層撮影法)で撮った患者の臓器の3次元データがある。これを使えば、例えばその患者の肝臓を模型で再現できる。肝臓や腎臓を1個作る費用は数万~数十万円。数時間から十数時間でできる。

 神戸大学病院では2010年から、肝臓がんなどの患者に手術を説明する際に使っている。「どんな手術でどのように治るのかを、患者さんが実感できる。安心して手術を受けてもらえる」と杉本真樹医師は話す。このほか、医師が手術の手順を詳細に検討したり、臓器に触れる機会がない看護師や学生を教育したりするのに役立っているという。

化石の模型も

3Dプリンターで作った恐竜アルバロフォサウルスの復元模型。白い部分が発掘で見つかった化石を示している(国立科学博物館提供)

 科学研究の分野でも利用が広がっている。例えば化石研究。世界に一つしかない貴重な化石や、もろい化石でも、本物そっくりの模型を手にとって観察できる。3年前から3Dプリンターを使っている国立科学博物館の真鍋真研究主幹は、「研究の精度やスピードが上がった」と話す。

 たんぱく質や細菌などの模型づくりを研究している北陸先端科学技術大学院大学の川上勝准教授は、「立体模型に触れることで、直感が働く。大発見につながる発想も生まれるかもしれない」と期待している。

 臓器を作る動きもある。富山大学の中村真人教授が開発したのは「3Dバイオプリンター」。インク粒子の代わりに細胞を噴射し、立体的に積み重ねる装置だ。これまでに直径0・1ミリ・メートルの細長い管を作ることに成功した。中村教授は「世界に類のない新しい装置を開発し、医療技術の進歩に貢献したい」という。

製作層を重ねて

 3Dプリンターの歴史はそれほど新しくない。1990年代から使われているが、1台数千万円以上と高価だったため、利用は大企業などに限られていた。しかし、2000年代に入ると価格が下がり、最近では1台20万円以下の市販品も登場。3次元データを無償で公開しているサイトもある。

 3Dプリンターにはいろいろなタイプがあるが、共通する仕組みはこうだ。作りたい物の立体的なデータを、タマネギのスライスのように薄切りの層状に変換してプリンターに送信。下の層から順に作りながら、積み重ねていく。

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