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胃ろう「延命のためだけなら拒否」増加
家族でよく相談を
口から食べられなくなった患者に、おなかに小さな穴を開けて、栄養剤をチューブで直接胃に送る「胃ろう」。高齢の長期入院患者が多い療養病床は、3割の患者がつけているとされる。延命のためだけの胃ろうには否定的な論議が高まるなか、胃ろうをめぐる問題に日々直面している療養病床の現場の声を聞いた。
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「不要」の選択 提示しやすく

「『胃ろうはつけないでいい』と言う患者や家族が、数年前に比べて増えた」
「安岡病院」(山口県下関市)の戸田健一院長はそう話す。
278床のうち154床が療養病床。胃ろうを検討するケースは多いが、認知症や脳血管障害の高齢患者では、胃ろうにする人は減少しているという。
入院後の早い時期に、急変時の救命措置や胃ろうなどに関する意向を確認する。入院後も、いずれ食べられなくなると思われる人には早めに人工栄養について説明し、家族で時間をかけて話し合い、結論を出してもらうように促している。
戸田院長は「以前は、延命の可能性がある処置を『実施しない』選択肢を提示すること自体が難しかった。医療側も選択肢を示しやすくなり、家族の側も『しないでいい』と言えるようになった」と話す。
千葉県袖ヶ浦市の「袖ヶ浦さつき台病院」で、アルツハイマーだった夫を2011年にみとった女性(70)は、主治医や担当看護師から、胃ろうをつけた場合の可能性について何度も説明を受けた。意思表示できた頃の夫の考えは「つけたくない」だったが、迷い、家族で繰り返し話し合った。結局、つけないまま夫は逝ったが、「病院にも家族の気持ちを受け止めてもらえたと思う」と女性は話す。
日本老年医学会は昨年6月、高齢者の胃ろうについて、家族内や医療者との間で話し合いを重ねる中で結論を出すことが望ましいとする指針を作成した。
「差し控え」や中止の経験のある宮城県内の病院では、中止は下痢や誤嚥(ごえん)性肺炎など医療的要因がほとんどだが、差し控えは本人の意思表示や家族の希望などが少なくないという。「苦痛の大きい状態で生きながらえるだけの胃ろうは、できるだけしたくない」と院長は話す。
伝わっていない正しい情報
一方、胃ろうだけが不要な延命措置としてクローズアップされているとの疑問の声も聞かれた。
茨城県内の病院では、胃ろうを拒否する代わりに、むしろ苦痛の大きい鼻からのチューブを希望する患者や家族が増えた、と困惑する。患者に正しい情報が伝わっていないためで、看護部長は「胃ろうのほうが口から食べるリハビリもしやすい」と訴える。
「経口摂取と併用して安全に食べるための道具」(東京都の病院)という声もあった。また、胃ろう患者の半分近くが、再び口から食べたり、経口摂取と併用したりするという新潟県の病院院長は「口から食べられるようにしても病院側のメリットは少ない。リハビリが普及する仕組みを考えるべきだ」と話す。
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「療養病床」50床以上 病院にアンケート
読売新聞は、「療養病床」が50床以上ある約2500病院から無作為に抽出した505施設に対し2012年8月~11月、アンケートを行い、108施設(21%)から回答を得た。
アンケートでは、口から食べられなくなった患者に、胃ろうを差し控えたことがあるかどうか、いったん胃ろうをつくった患者に対し、胃ろうから入れる栄養量を次第に減らした、あるいは中止したことがあるかどうかについて質問した。「差し控え」は、8割近くが「ある」と回答、「次第に減量」「中止」は半数前後が「ある」とした。
自由回答では、胃ろうについての医師や患者家族の理解不足を訴えるものなど様々な意見が聞かれた。(針原陽子)
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