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こころ元気塾

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社会学者・古市憲寿さんインタビュー全文(2)大人への注文

社会制度の変革…決定権持つ50、60代が考えるべき

 ――現状に満足感を感じている若者について、現実逃避と批判する人もいます。20年後、30年後、さらに状況が悪化した次の世代に「どうしてくれるんだ。何もせずに」と責められる可能性もご自身で触れられていますが、今、社会を変えるための行動を起こさなくてもいいのですか。

 「それは若者がやることでしょうか。社会により責任を持っているのは上の世代だと思いますし、今、権利や意思決定権を持つ高齢者が動かないと変わらない問題だと思います。当然若い人だって、20年なり30年なり生きた責任はあると思いますけれども、現時点で、政治家や企業のトップではない20代と、企業のトップや政治家のできることは違います。社会制度に関しては、今、決定権を持つ50代、60代が考えるべきであって、日本という国の持続性を考えるのであれば、若年層の社会保障を整備するのは、彼らの責任。自己中心的で、短期的な視野しか持っていないのは、逆に高齢者の方かもしれません」

 「日本は少子化対策について、国としても、企業としても本気で取り組んでこなかった。そのことに対する責任は、20代も20代なりに受け持つべきですが、50代、60代も、自分の年金がなくなる不安だけではなくて、50年、60年社会を生きてきた責任として、後ろの世代のことも考えるべきではないでしょうか。自分の年金の心配だけをしている場合ではないはずです」

 「あとは、単純に合理性の問題で、若年層を使った方がいい業種や職業があると思います。例えば、外交の会談にしても、日本側は60歳の定年間際のおじいちゃんで、アメリカ側は、40代ぐらいの中年の人がやっているなんて場面があるわけです。単純に体力の問題で負けていることもある。また技術の変化が激しい産業も、若年層の方が順応しやすいから、若年層の登用が効果的なことも多い。別に『若者がかわいそう』という話ではなくて、『若者を活用しないともったいない』んです。経済合理的に考えてみてもどうかと思う事例があまりにも多いと思います」

少子化対策、なぜ本気にならないのか

 ――あえて、若者から社会制度に注文を付けるとすると?

 「まず、短期的に言えるのは、税と社会保障の一体改革は、若年層や家族向けの福祉がほとんどないという点です。消費税の増税分に関しても、出産・子育て休暇の支援や女性の再就職支援など、若年層のための社会保障に向かうのは0・3%程度。今、少子化が問題になっていますが、日本史上2番目に人口が多い団塊ジュニア世代が出産可能年齢において合計特殊出生率が1・4ということは、これからどんどん下がっていくのは明らかなのにもかかわらず、少子化対策に本気にならないのは驚きです。ヨーロッパは1・7とか1・8で、徐々にソフトランディングする道を選んでいる。出生率が低い国は日本と韓国と台湾など東アジアに集中しています。香港は1・0ぐらい。当然、自分の国だけでは労働人口を確保できないので、移民の受け入れが前提の香港ならまだしも、日本がそのような戦略を持って少子化を維持しているとはとても思えません」

 ――保育所の待機児童の減少とか、婚外子の差別撤廃とか色々具体策を提言されていらっしゃいますが。

 「そもそも女性にとって結婚するメリットがどんどん減ってきていると思います。だったらシングルマザーでも子供を育てられる環境を作るとか、できることはたくさんある。保守派の方は『日本の伝統的な家族が壊れる』と言うかも知れませんが、このままでは日本が壊れます。少子化対策というのは、日本の未来を考える上で最も重要な政策のはずなので、普通に考えれば一番合意が取りやすいことだと思うのですが」

 ――古市さんが本やメディアで発信することで、そういうメッセージはある程度上の世代にも伝わっているのでしょうか。内閣府の会議(※国家戦略会議フロンティア分科会幸福のフロンティア部会委員に就任)にも呼ばれているというのは、若年層のことを本気で考えないとこの国持たないね、というのを上の世代も気付き始めているということですか。

 「半分は本当で、半分はポーズでしょう。つまり、若者にどうにかしてほしい、もうこのままじゃ立ちゆかないから若い人を入れたらどうにかなるんじゃないかという、ある種、他人任せ的な期待の裏返しかもしれません。もう半分は、ポーズとしての『若者枠』。僕が最近いくつかの場所に『若者』として呼ばれるのは、そういう理由だと思います。もちろん、それは僕たち『若者』にとっても悪い話ではない。戦後すぐは、若者にチャンスがたくさん与えられた時代でした。それこそ石原慎太郎が23歳で芥川賞取って、映画監督もさせてもらえたように、論壇や研究者にしても、20代でデビューするのが当たり前だった。過度に進んでしまった高齢化の、ちょうど新陳代謝の時期なのではないでしょうか。若年層にもほかの世代にもチャンスだし、その業界なり、日本全体にとっても活性化のチャンスに成り得るということで、いいことだと思います」

どれだけ若者に任せられるか…大人側の力量、度量も問われる

 ――若者にチャンスを与えるために、まずは若者に声を挙げて欲しいと、多くの大人が歯がゆく思っている気がします。若者側にも努力が必要ではないのでしょうか。

 「やりたい人がやればいいし、若者の中にやりたい人はたくさんいます。また、逆に、やって欲しいと思う大人の利害もあるわけで、『自分たちが責任持つから好きにやってみろ』と言える大人がどれだけ増えるかの問題だと思います。会社内の意思決定機関でもいいですし、政府でもいいですけれども、大人の方がどれだけ若者に任せてみようと考えるかの話であって、大人側の力量や度量の深さも問われるんだと思います」

 ――大人も考えろと。

 「そうですよ。新聞社にしても、若者に読んで欲しいというくせに、上層部はおじいちゃん、おばあちゃんばかりじゃないですか。基本的におじいちゃんが意思決定をしてしまう組織で、若者のことを考えろと言ったって無理に決まっているんだから、ちゃんと新入社員の若者世代を意思決定の場に入れてみるとか、組織の持続可能性を考えれば、当然取ってしかるべき選択だと思うんですよね」

 「もう一つ言えば、これからの産業における若者と女性の役割は非常に重要になってくると思います。ブルーカラーが減って、製造業など日本で男性の仕事とされたものが減っていく。一方で、介護、育児、食、サービス業など、元々女性の仕事とされてきたものが産業として増えていっています。女性の時代と言われるけど、それはたぶん日本が女性化しているからであって、何かの目的に向かってがむしゃらにやっていくというビジネスモデルが通用しなくなっています。官僚的な会議で、難しい顔してビジネスのアイディアを出しあうよりも、ラフにお菓子でも食べながらした会議のほうがいいアイディアが生まれたりする。特に若年層について言えば、男性と女性の意識の差がどんどん減っているという意味で、若い男性が女性化してきている。そういう価値観は、これからもっと重用されていいと思うし、それは企業としても社会としても非常に合理的な選択だと思います」

 ――先行している企業はありますか?

 「例えば、IBMなどは、女性や若者を多様性戦略の中に組み入れていて、若手社員の話を上層部が聞くということを始めています。特に消費者が若年層に偏る業界なら、こういうことはもっと行われてもいいと思います。また、楽天でも情報産業でも、新興企業が旧来産業を駆逐し、旧来の仕組みを変えていくということが既に起きてきていて、そこで旧来型の企業が何とか負けないようにするならば、自分たちの方も新陳代謝を図らなくてはいけない。それができるかどうかは、若者のアピールというより、上の方が判断できるかという話だと思いますけれどもね」

 ――確かに、若者が雇え、意見を聞いてくれと要求しても、経営者が判断しないとどうにもならないですね。

 「それこそ優秀なのに、正社員に登用されない人なんてたくさんいます。優秀な人を正社員登用する仕組み自体をもたない企業があまりにも多い。せっかく優秀な人があまり高くない給与で働いてくれるというのに、それをむげに放棄するというのはあまりにももったいない。何も中年の社員を首にしろということではなくて、ちょっと残業代をカットするとか、みんながちょっと給与をカットすることで一人雇えるかもしれない。そういうことを考えると、これは企業の経営者の責任、経営者がいかに判断するかということだと思います」(続く)

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