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[発達障害の生きにくさ]読み書き困難で自己否定
何かハンデを持っていると、自信を失ったり、周囲との折り合いがつかなかったりして、さらに生きにくさを抱えることがある。こうした悪循環は、ちょっとした周囲の理解や工夫で、防止・軽減できることもあるという。(館林牧子)
できる部分伸ばし肯定感
新潟県湯沢町出身の南雲明彦さん(27)は、小学生の時から字を読むことが苦手だった。眼鏡をかけてもゆがんで見える。授業内容は努力で覚えたが、人前で読み書きをする時にはいつも緊張した。これが「読字障害」とは、20歳過ぎまで分からなかった。
中学生活はそれでも楽しかった。友達も多く、テニス部の部長になり、生徒会でも活躍した。ところが、高校で県立の進学校に進むと状況は一変する。古文や英語の音読でつっかえると、「もういい!」と後ろの生徒に飛ばされる。渡されたのは小学3年生の漢字練習帳。成績もガクンと落ちた。
不安で夜、眠れなくなった。高2の秋、朝起きると体が動かない。不登校になり、部屋で奇声を上げ、物を壊す。両親に連れられて精神科病院に1か月入院。高校をやめ、電車で約1時間20分かけて定時制高校に通うことにした。
その頃から、30分も40分も、手を洗い続けるようになった。通学の電車の中で手を洗いたくなる衝動にかられ、途中下車をしては次の電車を待つ。電車は1時間に1本。学校にたどり着けず、3か月で退学した。
転機となったのは、19歳の時。東京のカウンセラーとの出会いだった。生活のリズムを立て直し、21歳で通信制高校を卒業。その年、発達障害の一つである読字障害の団体を訪ね、ようやく困難の正体がわかった。
発達障害は、生まれつきの脳の機能の問題で、学校や社会での日常生活を営む上での様々な困難が生じてしまう状態を指す。こうした状態は、なかなか本人の努力だけでは改善しない。
国立特別支援教育総合研究所総括研究員の笹森洋樹さんは「緊張が強い、表情が硬いなど、困っている様子を察知し、本人と相談しながら解決への手だてを考えていくことが大切」と話す。
例えば、いろいろな雑音を拾ってしまう聴覚過敏なら一番前の席に座る。他人の表情や空気を読むなどが苦手で対人関係がうまくいかない場合は、周囲がそれを理解することで、負担が軽減することもある。南雲さんは、パソコンや携帯端末で字を拡大し、見やすい字体に変えれば、うまく読めることがわかった。
「わかっていれば回り道をせずに済んだかもしれない」と南雲さん。笹森さんは「苦手な部分はその人の特性と受け止め、できる部分を伸ばし、自己肯定感を高めることも二次的な障害を防ぐのに有効」と話す。
児童精神科医で日本発達障害ネットワーク理事長の市川宏伸さんは「不器用、コミュニケーションが苦手、落ち着きがないなどを含めれば、100%発達障害でない人はあまりいないのではないか。みんなが同じようにできて当たり前という思いこみから社会が脱することも必要」と話す。
読字障害 |
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読むのが極端に遅い、行を読み飛ばす、字がうまく書けない、字の形を混同するなど読み書きに関する様々な症状が出る。脳の文字に関する情報処理の仕方が通常の人と違うためと考えられている。米国では10~20%、日本では4・5%程度いるとも言われている。 |
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