大腸がんの予防と治療
イベント・フォーラム
基調講演 (1) 「早期発見が最重要」
医療ルネサンス相模原フォーラム
急増している大腸がんの予防と治療をテーマに、「医療ルネサンス相模原フォーラム」が4月8日、相模原市のミウィ橋本で開催されました。虎の門病院消化器外科部長の沢田寿仁さんの基調講演に続き、大腸がんを経験されたジャーナリストの鳥越俊太郎さんとの対談が行われました。この分野の第一人者である沢田さんによる治療の最新情報、肺、肝臓への転移も克服して活躍を続ける鳥越さんが語る生々しい体験談――その詳報をお届けします。
虎の門病院(東京都港区)消化器外科部長 沢田寿仁(さわだ・としひと)さん |
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神戸大医学部卒。大腸がんの腹腔鏡手術を得意とし、今年4月末現在、手術件数は2258例。虎の門病院を6月で退職、7月からは、宮崎県都城市の横山病院で、大腸がん腹腔鏡手術を担当する。虎の門病院では、毎週金曜日午前に診察予定。60歳。 |

きょうは、「知っておきたい大腸がん治療の最新情報」と題してお話しします。
大腸は、食道、胃、十二指腸、小腸に続く臓器です。右の下腹部の盲腸から始まり、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、そして最後の部分である直腸からなります。主な機能は、水分を吸収し、便をため、便を排出することです。
私たち日本人が死ぬまでに、何らかのがんになる確率は男性が53%、女性が41%です。患者数が多い順に言うと、男性は胃がん、大腸がん、肺がん、前立腺がん、肝臓がんです。女性では、乳がん、大腸がん、胃がん、子宮がん、肺がんの順になります。大腸はいずれも第2位です。
一生の間に大腸がんにかかる割合は、男性では12人に1人、女性では16人に1人です。年齢では60歳代が最も多い。大腸がんになる部位では、S状結腸と直腸がんで約65%を占めます。


大腸の壁の構造をご説明すると、上のほう、つまり腸の内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、そして漿膜(しょうまく)に分けられます。がんが粘膜か、次の粘膜下層にとどまるものを、早期がんといいます。それ以外を進行がんといいます。粘膜下層まで達しているがんは、大腸の外のリンパ節に転移がある恐れがあるので、その場合には、早期がんとはいえ、手術をしなくてはなりません。
虎の門病院の症例では、大腸の早期がんは、20%から30%、大体平均25%を占めます。残り75%が進行がんです。日本人で今一番おなかの中で多いがんは胃がんですが、胃がんは、65%は早期がんで発見されます。大腸がんは早期に発見される率が低い点が、胃がんとの違いです。
大腸がんの検診では、「検診を行うことによって、死亡率が下がる」という、エビデンス(証拠)が明確にあるのは、便潜血検査と大腸内視鏡検査です。
便潜血検査は、便の中に潜む、目に見えない血液の有無を調べる検査です。国立がんセンター(現・国立がん研究センター)のデータですが、便潜血検査を受けて、精密検査をすべきだと判断される人は7%です。そして次が問題なのですが、この7%のうち精検を受けた人は54%。つまり、半数近くが検査を受けていないのです。
便潜血検査が陰性であれば、それ以上の検査は必要ありませんので、また1年後に便潜血検査を受けてください。ただし陽性であれば、必ず大腸の内視鏡検査を受けてください。内視鏡の検査をせずに、簡単に済ませようと、便潜血検査を繰り返す人に異常が見つかり、手術を受けることになった場合、ほとんどというより、すべての人が進行がんです。そして、精検を勧められて内視鏡検査をした人の場合は、70%が早期がんで見つかっています。このことを覚えておいてください。
日本人でがん検診を受けている人の割合は、残念ながら大腸の検診を含めて20%程度です。欧米は60%とずっと高い受診率です。
次に、がんの予防です。禁煙と節度のある飲酒は意味ある予防法と言えます。野菜と果物は、ひところ大腸がんの予防に効果的と言われていたのですが、アメリカや日本のデータで、予防効果は確実ではない、これはちょっと怪しいかなという雰囲気に今はなっています。がんとの関連が明確なのは、ハム・ソーセージなどの加工肉のたぐいですね。そういったものは控え目にしてください。コーヒーは予防的に働くそうです。そして適度な運動が必要です。体形はやせればいいというものではなくて、やせず太らずの中庸がよいようです。
一言で言えば、節度のある生活を送っていただければ、そんなに大腸がんになる大きな危険はないと思っています。
次に、大腸がんの診断ですが、診断に内視鏡検査は欠かせません。これは大腸がんがあること、大腸がんの部位、そして形、大きさ、進みぐあいがわかります。大腸がんによっては内視鏡的な治療で済む場合があります。
ほかの検査には腹部超音波検査、それから胸部、腹部のCT検査、MRI検査、PET検査等がありますが、大腸がん自体の診断にはほとんど役に立ちません。これらは、がんの広がりぐあい、再発の有無を見る検査です。大腸の内視鏡の検査は直接的な検査ですが、その他の検査は間接的な検査でしかありません。
次に、大腸がんと腫瘍(しゅよう)マーカーについてお話しします。大腸がんの腫瘍マーカーの代表的なものはCEAです。血液検査で大腸がんがわかるという方も多い。しかし、CEAは5以上を陽性としますが、早期がんの陽性率はたかだか10%。進行がんでも43%。がんの部分が取り切れないような場合でも、陽性率は74%。つまり、その段階でも4人に1人はCEAに表れないのです。このように、腫瘍マーカーは大腸がん自体の診断には全く役に立たないと覚えておいてください。
次に、大腸がんの治療ですが、大腸がんの治療には内視鏡的な治療、そして外科的な治療、そして補助的な治療である化学療法や放射線治療等があります。
まず、内視鏡的な治療ですが、ポリープ切除術、粘膜切除術、粘膜下層剥離(はくり)術の三つのやり方があります。
ポリープ切除術というのは、ポリープの根っこをワイヤで締めつけて電気を流して、ポリープを焼き切ります。粘膜切除術は、ヒアルロン酸等の液体をポリープの周囲に注入して浮き上がらせ、焼き切る方法です。粘膜下層剥離術は近年発達してきている方法です。より広い範囲のがんを一括切除する方法で、粘膜切除術と同様に、ポリープ周囲を浮き上がらせ、電気メスで周囲に切り込みを入れ、一度にそぎ取ります。粘膜下層まで確実に取るという方法です。
この三つの方法で、例えば大腸がんと診断されても、手術を受ける必要がなくなった人が多く出ております。
内視鏡的な治療のまとめですが、粘膜内にとどまっているものであれば、治療は完了。つまり、手術する必要はありません。ところが、粘膜下層までがんが及んでいますと、大腸の外のリンパ節に転移があるおそれがありますので、この一部は外科的治療、つまり、一般にいう手術が必要となります。
内視鏡的治療で大腸の腺腫、これは大腸がんの前駆病変と言われておりますが、これが発見されれば、あらかじめ取ることによって大腸がんの発生をなくすことができます。つまり、大腸がんの二次的予防になり得ます。
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