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宋美玄のママライフ実況中継

医療・健康・介護のコラム

出産時の会陰切開、性機能に影響?

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雪遊びをしてはしゃぐ娘

 皆様あけましておめでとうございます。元旦に娘は3歳の誕生日を迎えました。2歳の誕生日と違って、今日が自分の誕生日だということを自覚していたので成長を感じました。誕生日には軽井沢で雪遊びをして、LEGOのシンデレラ城を買ってもらい、終始ニコニコでした。自分は大事にされているという実感を得てもらえて何よりでしたが、翌朝起きるなり「きょうもおたんじょうびするの?」と言った時には、ずっこけそうになりました。

産後6か月の母親の健康、研究テーマに

 実は私は今、川崎医科大学の大学院4年生で、今年の3月に博士(医学)を授与される予定です。研究テーマは産後6か月の母親の健康についてなのですが、その一部が論文になりましたのでこちらで内容を紹介したいと思います。

 事前に検査に同意してもらった産後6か月の女性にお産の時の様子とSFQ28という自己回答式の女性性機能質問票を郵送し、郵便で返送してもらい、解析可能な435人について解析しました。

 経ちつ分娩ぶんべんグループ、吸引・鉗子かんし分娩グループ、帝王切開グループに分けたところ、性機能についてはほとんど差はありませんでした(パートナーシップという少し異色な項目のみ、統計学上意味のある差がありました)。

 会陰に傷なしグループ、会陰切開グループ、会陰裂傷(肛門の筋肉に達しないものまで)グループ、帝王切開グループに分けたところ、性的な感度という項目で、傷なしグループよりも会陰切開グループの方が悪いという結果になりました(裂傷グループと帝王切開グループは傷なしグループと比べて差はありませんでした)。また、産後6か月の時点で、夫が立ち会い出産をしたグループとしなかったグループでセックスレス(4週間以内にセックスをしていない)率に差はありませんでした。

お決まりの作業としての切開、やめた方がいいのでは…

 会陰切開についてはこちらのブログでも触れたことがありますが、色々な目的で行われることがあります。赤ちゃんが苦しんでいると思われる際に少しでも早く出してあげたい場合に行ったり、そのままだと会陰が裂けて肛門まで傷が達してしまいそうな場合にも肛門と違った方向に切開したり、などが代表的な目的です。皮膚が伸びやすかったり、お産がちょうどいいスピードで進行したり、取り上げる者の技術が高かったりすると裂けずに産めることもありますが、妊娠中にオイルでマッサージをしたり助産院で分娩すれば裂けずに産めるというものではありません。会陰切開も裂けることも、そうなることは仕方がないということが多いのです。

 ただ、私が医師になってすぐのころに上司たちから「会陰が伸びきってしまうと性機能や排尿機能に影響するから、伸びる前に会陰切開をした方がいい」と言われたので、そのように思っている医師も結構いるのではないかなと思います。今回の研究の結果はそれとは逆になりましたが、他の文献を見ても私と同様のものが多かったです。今は昔と違い、お決まりの作業として全例で会陰切開をするというところはずいぶん減っていると思いますが、やめた方がいいのではないかと思います。また、夫が分娩に立ち会うとセックスレスになると言われているのを聞かれた方もいらっしゃるかと思いますが、今回の研究結果によるとあまり関係ないようです(詳しくはこちらを参考になさってください)。

産後うつや母子愛着など、今後のテーマに

 今回大学院で研究をしたことで研究の組み立て方や進め方が見えてきました。これ以外にも産後うつや母子愛着、ストレスの指標についても調査していますが、引き続き母体の健康について研究を続けていきたいと思っています。

 今回の研究は川崎医大の倫理委員会の承認を得ていたにも関わらず、複数の総合病院に性についての研究であることを理由に協力を断られるという経験をして、偏見を感じました。日本では産後1か月健診の後は母親が病院を受診する機会はなく、出産方法を決める際に産後の性機能が考慮されることは通常ないので、こういった研究は産む側からすれば意味があるものだと思います。大学という施設からこういう論文が出せたことは一歩前進だと思います。研究に協力してくれたお母さんたちと研究室の皆さんに深く感謝いたします。

 今後も診療と研究の両方を頑張りたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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3件 のコメント

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有りがたい内容だと感じます。

みき

今回の先生の研究内容は、とても有りがたい内容だと感じます。実際、出産後のマイナートラブルを、受け入れていますとか専門にみてくれる施設はなかったよ...

今回の先生の研究内容は、とても有りがたい内容だと感じます。
実際、出産後のマイナートラブルを、受け入れていますとか
専門にみてくれる施設はなかったように思います。
でも、40代で初産の友達に聞くと
性交痛
腰痛
体の傷み
出血
など、妊娠にまつわるマイナートラブルはたくさんあります。
私が出産した医療センターは親切?なのか、問合せたら診てもらえましたが
開業医のマタニティークリニックなら診察に行きづらいです。
または、みんな、母乳オバチャンのところで助産師に相談ですね。
お母さん、産んでからもますます大変だから
ケアの大切さを世の中にわかって
もらいたいです!

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3歳からが楽しいよ

ようじん

長女を産む時、何の断りもなく会陰切開されました。切開は良いとしても、縫合の時麻酔なしで縫われて、痛すぎて動いたら、我慢しろと医師に叱られた事が忘...

長女を産む時、何の断りもなく会陰切開されました。
切開は良いとしても、縫合の時麻酔なしで縫われて、痛すぎて動いたら、我慢しろと医師に叱られた事が忘れられない。お産で痛いついでだから、我慢しろと言うことでしょうか?男性は麻酔なしで皮膚に針を刺されて我慢できるのかな?
動いたからか縫い目がギザギザで、何年もジクジク腫れて痛かったです。
次女を3年後に別の病院で産んだのですが、その時の医師が「ひどい縫合だな、痛かったでしょう」と丁寧に縫い直してくれて、それからは大丈夫です。
出産時に変に裂けて、便漏れで苦しんでいる人もいると聞きます。
女性の長い一生に配慮した治療を、お願いします。

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基礎研究は大事

小町ファン

いつもお疲れ様です。性機能といってもQOLの向上のことだと思っていますので、先生のような論文が多数でてくるといいと思います。出産時ばかりでなく、...

いつもお疲れ様です。

性機能といってもQOLの向上のことだと思っていますので、先生のような論文が多数でてくるといいと思います。
出産時ばかりでなく、癌治療中やその後にも応用できる知識でしょうね。

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